研究課題/領域番号 |
19K08603
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
入來 豊久 熊本大学, 病院, 非常勤診療医師 (20802078)
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研究分担者 |
藤原 章雄 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (70452886)
一安 秀範 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (50419636)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マクロファージ / 小細胞肺癌 / 環状スルフィド化合物 |
研究実績の概要 |
肺癌治療において非小細胞肺癌では分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬を含む新たな治療薬が開発されている一方で、小細胞肺癌(SCLC)の標準治療は数十年ほとんど変わっておらず新たな治療標的や治療薬の開発が喫緊の課題である。また、近年、腫瘍微小環境を形成する腫瘍関連マクロファージの活性化状態が腫瘍進展に関与していることが知られており、腫瘍促進性のオルタナティブ活性化(M2)マクロファージが腫瘍促進に関わっている。申請者らはSCLCの腫瘍微小環境におけるマクロファージとSCLC細胞両者におけるSTAT3の活性化が治療標的となることを報告した。また、申請者らが同定した環状スルフィド化合物がSTAT3阻害によりM2活性化を抑制することを確認した。そこで、本研究では、マクロファージ活性化制御化合物のSCLC移植モデルマウスにおける有効性を検証することで、マクロファージ活性化制御に基づく新たなSCLCの治療法の開発を目指す。本年度は環状スルフィド化合物であるOnionin Aの誘導体を用いて、それら化合物のマクロファージおよびSCLC細胞株に対する作用、ならびにSCLC移植モデルマウスにおける効果を評価した。その結果、環状スルフィド化合物誘導体はマクロファージの活性化を制御することで腫瘍細胞の増殖を抑制することを明らかにした。さらに、環状スルフィド化合物がSCLC移植モデルマウスにおいても腫瘍微小環境におけるマクロファージの活性化制御を介して抗腫瘍免疫を活性することで腫瘍進展を抑制することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実験計画における大きな目標としては、マクロファージ由来液性因子によるSCLC細胞のSTAT3活性化と細胞増殖能、浸潤能、三次元培養下のスフェア形成能などの増加に対するマクロファージの活性化を制御する環状スルフィド化合物であるOnionin A誘導体の効果の検討ならびに、抗腫瘍作用を示すOnionin A誘導体のマクロファージやその他の腫瘍免疫関連細胞(Myeloid-derived suppressor cells: MDSC, Treg, CTL, NK cell等)を含む正常細胞に対する安全性(毒性)を評価することであった。本年度の研究により、Onionin A誘導体がマクロファージ由来液性因子によるSCLC細胞のSTAT3活性化と細胞増殖能、浸潤能、三次元培養下のスフェア形成能などの増加を抑制し、抗腫瘍作用を示す濃度において正常細胞に対しては毒性を示さないことを明らかにした。また、Onionin A誘導体が腫瘍移植モデルマウスにおいても腫瘍進展(腫瘍重量・腫瘍サイズ)を抑制することを明らかにした。さらに、腫瘍移植モデルマウスの腫瘍組織を用いた解析により、Onionin A誘導体が腫瘍微小環境におけるマクロファージの活性化状態を制御することで、腫瘍免疫の活性化(CD8陽性T細胞の増加)に寄与することで腫瘍進展を抑制することを明らかにした。本研究結果については、現在学術論文に投稿中である。ゆえに、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、免疫不全マウスを用いたヒトSCLC細胞の皮下腫瘍モデルを用いて、環状スルフィド化合物であるOnionin AならびにOnionin A誘導体の既存の抗腫瘍療法(抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体やシスプラチン等)との併用による抗腫瘍効果の評価である。つまり、これまでの研究成果ならびに、上記の検証を行うことで、将来的に臨床応用可能なマクロファージの活性化制御に基づく小細胞肺癌に対する新規治療戦略の基礎的知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新型コロナウイルスの影響で、2020年4月から6月および2020年3月が、主に臨床業務を行わなければならず、研究時間を確保できず十分な研究が行えなかったこと、ならびに学会発表が行えなかったため次年度使用額が生じた。 (使用計画) この一年間において、コロナ渦の状況においても効率的に研究を行える体制を整えてきたため、次第に停滞していた実験も効率良く行えるようになってきていることから次年度の研究実施にあたって支障はない。
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