研究課題/領域番号 |
19K08611
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
瀬山 邦明 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (10226681)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リンパ脈管筋腫症 / 細胞外小胞 / mTORシグナル / リンパ管新生 / 形質転換 |
研究実績の概要 |
リンパ脈管筋腫症(LAM)患者の乳び胸水から、超遠心法を用いて細胞外小胞(EVs)を分離することに成功した。LAM患者由来の乳び胸水、乳び胸水から分離したEVs、をそれぞれヒト胎児線維芽細胞株(HFL-1)へ添加しphenotype transferが生じるのか検証を行った。LAM患者由来の乳び胸水及び分離したEVsを添加した結果、mTOR系の上流経路にあるNOTCH1、RHEBのmRNA発現レベルは2~1.5倍に発現増加を認めた。しかし、タンパクレベルにおいてはmTOR系の明らかな亢進は認めなかった。 また、LAM患者由来の乳び胸水と良性疾患の乳び胸水について、各々3例ずつEVsを分離し、miRNAの網羅的発現解析(マイクロアレイ)を行った。うち1例のLAM患者においてはmTOR阻害剤(シロリムス)の投与前後のEVs中のmiRNA発現を比較した。その結果、LAM患者由来の乳び胸水中のEVsではmiR-21、miR-23a、miR-23b、miR-26、miR-451aの5つのmiRNAの発現が有意に低いことを見出した。また、治療後のLAM患者由来乳び胸水のEVsではmiRNAの発現パターンがコントロール群に近似しており、前記のmiRNAの発現は低下していた。以上の結果から前記のmiRNAが診断、治療効果判定のマーカーになり得ると判断し、20例のLAM患者のシロリムス治療前後の血清、20例の健常人の血清からEVsを分離し、前記のmiRNAについてqPCRで発現量を比較した。その結果、乳びと血清ではEVs中のmiRNA発現が異なり、前記の5つのmiRNAは治療効果判定のマーカーには有用でなかった。一方、乳びの結果とは異なる結果となったが、miR-451aの発現はLAM血清中のEVsで有意に発現が高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
乳び胸水、及び乳び由来のEVsを用いてphenotype transferの検証を行ったが、mRNAレベルでの変化は認めたもののmTOR系のタンパク質レベルでの変化は認めなかった。理由として、そもそも細胞株であるHFL-1では、すでに細胞増殖を制御するmTOR系が亢進していることが考えられた。また、超遠心法におけるEVsの収量が少なくタンパクレベルでのphenotype transferを起こすに至っていない可能性が考えられた。 乳び胸水から分離したEVsの網羅的発現解析では、疾患の診断や治療効果のマーカーになり得ると期待されたmiRNAが、血清中のEVsでは異なる動態を示した。この理由としては乳びと血清ではEVsの由来となる細胞が異なる(具体的には血清中は血球系細胞から多く分泌される)ことが理由として考えられた。 前記の通り、当初選択した細胞株が実験の検証に不向きであった可能性があること、また乳びと血清ではEVsのプロファイルが異なること可能性がわかったことから、(3)やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
EVsによるphenotype transferについては、HFL-1ではなくヒト肺組織から分離した初代培養細胞を用いて検証する。具体的には肺移植時に摘出されたLAM肺及び肺癌患者の摘出肺の非癌部からFACSで上皮細胞、内皮細胞を除いた細胞集団を間葉系細胞として分離し培養する。LAM患者由来の乳び胸水、乳び胸水由来のEVs、およびLAM移植肺由来間葉系細胞の培養上清から採取したEVsを、それぞれ正常肺由来間葉系細胞へ添加してPhenotype transferが起きるのか、検討する。タンパク質レベルでphenotype transferが示された場合、EVsの添加前後の遺伝子発現について網羅的解析を行い、mTOR系以外にどんな影響が生じるのか検討する。 乳び胸水から分離したEVsのmiRNAの網羅的発現解析の結果が、血清では応用できなかった点については、血清から分離したEVsで改めてLAM患者と健常人で網羅的解析を行う。その結果から疾患バイオマーカー、治療効果判定のマーカーとなるEVs中miRNAを同定し、症例数を増やしqPCRで検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予想よりも早い段階で乳び胸水、血清などから超遠心法によりEVsを分離する技術を習得できた。そのためcell-lineへのLAM乳びゆらいEVsの添加実験や、乳び中のEVsに含まれるmiRNAの網羅的発現解析などの実験が当初予想よりも早期に実施できた。そのため次年度使用が生じた。
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