研究実績の概要 |
癌治療にける抗PD-1/PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、新たな有害事象として自己免疫疾患の発症が報告されているが、それを予測するバイオマーカーは知られていない。肺癌症例の約15%は既知の自己抗体が陽性、それ以外の症例でも~80%は未同定の細胞成分に対する自己抗体が陽性であった。 肺癌症例46例における膠原病関連自己抗体の頻度は抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体(Jo-1など)2%, TIF1gamma/alpha 2%,セントロメア (CENP-A, B) 2%, RNAポリメラーゼIII/I 2%, U1RNP 2%, Ro60/SS-A 6%, Ro52 11%, Su/Argonaute 2 2%でTIF1beta, トポイソメラーゼI/Scl-70,MDA5, Ki/SL, Replication protein A(RPA)は0%であった。一般健常人における頻度は抗セントロメア、Ro60, Ro52, Su/Ago2が0.5%程度, 抗U1RNPが0.05%, それ以外は0.04%以下であるので、一般健常人では検出されない自己抗体陽性例がみられるのに加え、一般にも0.5%程度で検出される自己抗体の頻度が高いことが示された。 皮膚筋炎の症状がない肺小細胞がんの症例で、悪性腫瘍合併皮膚筋炎と関連する抗TIF1gamma/alpha抗体陽性例が経験された。この症例では抗癌剤、放射線治療開始後に皮膚症状、筋症状が出現して皮膚筋炎と診断され、ステロイドで治療された。もし、このような症例でICIが使用されれば、ICI誘発皮膚筋炎と診断される可能性があるが、肺癌診断時に抗TIF1gamma/alpha抗体が検出されていることから、肺癌の診断が皮膚筋炎に先行した肺癌合併皮膚筋炎と解釈された。悪性腫瘍診断時に自己抗体の網羅的検索をすることが有用と考えられる。
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