研究課題/領域番号 |
19K08654
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
浜田 直樹 九州大学, 大学病院, 助教 (00423567)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肺傷害 / 薬剤性間質性肺炎 / 上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤 / 免疫チェックポイント阻害剤 |
研究実績の概要 |
上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(epithelial growth factor receptor tyrosine kinase inhibitor: EGFR-TKI)や免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor: ICI)は、肺癌治療において劇的な効果を示すことがある反面、時に致死的な薬剤性肺傷害(薬剤性間質性肺炎)を発症する。しかし、肺傷害を起こす機序は不明であり、薬剤の安全な使用法に関する知見もほとんどわかっていない。薬剤性間質性肺炎では、一般的に気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage: BAL)液中のリンパ球の増加が認められる。我々は、先行研究として、間質性肺炎、サルコイドーシス、薬剤性肺炎症例のBAL液について、フローサイトメトリーを用いたリンパ球表面マーカーの解析を開始し、腎癌胸壁転移に対してnivolumabを使用し、治療効果、胸水貯留、薬剤性間質性肺炎を認めた症例において、胸水とBAL液のリンパ球の表面マーカーを解析しリンパ球のプロファイルがほぼ同様であることを報告した(Tanaka T, et al. Oncotarget. 2018)。またICIによる薬剤性肺炎13例についてBAL液の免疫チェックポイント分子の発現を解析しPD-1、TIM-3、TIGITの発現が、他の群と比し有意に上昇していることを報告した(Suzuki K, et al. Int Immunol. 2020. doi: 10.1093/intinn/dxaa022)。これらのリンパ球が抗腫瘍免疫のみならず、薬剤性肺傷害へも関わっていると考えられる。 現在、マウスのBALF、血液にて解析中であり、これらの解析を通じて、薬剤性肺傷害の発症予測、治療法の開発への大きな第一歩となりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当院においてBAL検査を施行する症例についてインフォームコンセントを行い、同意を得られた症例について、BAL液の解析を行った。BAL液中のリンパ球について表面マーカーの解析を行った。結果、ICIによる薬剤性肺炎13例、他薬剤による薬剤性肺炎5例、膠原病関連間質性肺炎18例、サルコイドーシス23例についてBAL液の免疫チェックポイント分子PD-1、TIM-3、TIGIT、LAG-3、PD-L1の発現を解析した結果を報告した(Suzuki K, Yanagihara T, Hamada N, et al. Int Immunol. 2020. doi: 10.1093/intinn/dxaa022)。その研究においてICIによる薬剤性肺炎症例では、CD8+T細胞におけるPD-1、TIM-3、TIGITの発現が、他の群と比し有意に上昇していることを見出した。これらのリンパ球が肺傷害を起こしている可能性があると考えている。またMDA5抗体陽性急性肺傷害においBAL液中の免疫チェックポイント分子の発現を検討し報告した(Suzuki K, Yanagihara T, Hamada N, et al. Rheumatology (Oxford). 2021;60:e14-e16. doi: 10.1093/rheumatology/keaa412.)薬剤性肺傷害の発症機序との比較からも興味深いと考える。現在、マウスナフタレン肺傷害とEGFR-TKI肺傷害モデルにおいて解析を行っており、免疫チェックポイント分子の発現を確認している。今後、免疫チェックポイント阻害薬を投与して解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
EGFR-TKIによる薬剤性肺傷害、ICIによる薬剤性肺傷害、EGFR-TKIとICIの併用による薬剤性肺傷害について、リンパ球の表面マーカー(特に免疫チェックポイント分子)に着目した解析を、動物モデルを使用して行う。動物モデルは我々が以前に確立したマウスナフタレン肺傷害モデルにEGFR-TKIを併用することにより肺傷害が増悪するモデル(Harada C, et al. Am J Respir Crit Care Med 2011)を使用する。同モデルにおいては、EGFR-TKIとICI を併用した際、PD-L1陽性リンパ球の浸潤を認めており(Hamada N, et al. Biochem Biophys Res Commun 2017)、BALFや肺組織を回収し、リンパ球の表面マーカーを中心とした詳細な解析を行う。具体的には、まず、マウスナフタレン肺傷害モデルについて、経時的にBAL液、肺組織の解析を行う。肺組織は、シングルセルにした後、フローサイトメトリー解析し、肺胞上皮細胞、気道上皮細胞、血管内皮細胞など肺組織構成細胞における免疫チェックポイントの発現の経時的変化を検討する。また、それぞれ構成細胞を単離して、in vitroの系で検討し、肺傷害発症の主となる責任細胞を探索する。次に、ナフタレン+EGFR-TKI投与群についても同様に検討する。EGFR-TKIはgefinitib、osimertinibについて検討予定である。次に、ナフタレン投与+ICI投与群について同様に検討する。免疫チェックポイント阻害剤は抗PD-1抗体(nivolumab)、抗PD-L1抗体(durvalumab)を用いる予定である。それらの結果に基づき、ナフタレン投与+EGFR-TKI投与+ICI併用投与群についても同様に検討予定である。 ICIは高値であるため慎重な検討が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
EGFR-TKIによる薬剤性肺傷害、ICIによる薬剤性肺傷害、EGFR-TKIとICIの併用による薬剤性肺傷害について、リンパ球の表面マーカー(特に免疫チェックポイント分子)に着目した解析を、動物モデルを使用して行う予定であるが、EGFR-TKIによる薬剤性肺傷害の解析と、再現性の高い実験手技の習熟に時間がかかった。当初の計画では、ICIによる研究は昨年度から開始予定であったが、そこまでの準備ができなかった。本年度はICIを購入してマウス実験に取り組む予定であるが、ICIは非常に高価な薬剤である。現在の予算では1回限りの実験、つまり一発勝負になる可能性が予測されるため、可能な限り完全に準備ができた状態にしてICI投与実験に望む予定である。
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