研究実績の概要 |
癌の発生母地である扁平上皮化生は、分化した細胞が別の分化した細胞へ運命転換する現象であるが、その起源細胞及び発生機序は不明瞭である。本研究では、club細胞の基底細胞への運命転換が、扁平上皮化生及び化生病変による発癌(扁平上皮癌)に寄与するかを細胞系譜解析と単1細胞遺伝子発現解析(single cell RNA sequencing, scRNA-seq)を用いて検証した。 本年度は、運命転換の分子機構解明のために、scRNA-seqデータを用いて、運命転換に寄与する細胞群の同定を行った。その後、運命転換過程を解析するために、細胞の分化・系譜を予測する技術であるRNA velocityを用いて細胞系譜予測を行った。さらに、iB細胞(club細胞から基底細胞へ運命転換した細胞)が扁平上皮化生に寄与するかを解析するために、扁平上皮化生-扁平上皮異形成-扁平上皮癌モデルを用いて、iB細胞の細胞系譜解析を行なった。 結果として、RNA velocityを用いた解析により、club細胞から基底細胞への運命転換系譜が予測された。扁平上皮化生マウスモデルを用いたiB細胞の細胞系譜解析により、iB細胞が扁平上皮様細胞に分化していた。 まとめると、我々の研究は、Notch signaling標的遺伝子の不活性化がもたらすclub細胞の可塑性(club細胞が基底細胞へ脱分化する)を示した。さらに、iB細胞は、扁平上皮細胞の起源細胞であることが示唆された。本研究の知見は、恒常性及び発癌におけるclub細胞の運命転換の理解及び前癌病変である扁平上皮化生の理解、さらには、扁平上皮化生予防に着目した新たな癌治療の基盤形成につながる。
|