研究課題
肺では生理的および病的状態の両方において3種類の一酸化窒素(NO)合成酵素アイソフォーム(NOSs)がすべて発現している(神経型[nNOS], 誘導型[iNOS], 内皮型[eNOS])。しかし、呼吸器疾患における全NOSs系の役割は未だ不明な点が多い。私達は、この点を私達のNOSs系完全欠損(triple n/i/eNOSs-/-)マウスを用いて検討し、肺線維症や肺高血圧の病態ではNOSs系は有益な役割を果たしているが、逆に気管支喘息の病態ではNOSs系は有害な役割を演じていることを見出した。この一連の研究結果から、同じ肺の病気であってもNOSs系の役割は病態が異なれば異なることが示唆された。この自身の研究成果を踏まえて、本研究では、呼吸器疾患におけるNOSs系の役割の多様性を検討した。私達は、研究の過程で、無処置のtriple n/i/eNOSs-/-マウスに肺気腫様の病態が認められることを見出した。そこで、野生型(WT)マウス、single nNOS-/-、iNOS-/-、eNOS-/-マウス、double n/iNOSs-/-、n/eNOSs-/-、i/eNOSs-/-マウス、およびtriple n/i/eNOSs-/-マウスの8種類のマウスにおいて、肺の病理学的解析、免疫組織学的解析、およびμCT解析を行った。その結果、WTマウスと比較してtriple n/i/eNOSs-/-マウスでは、肺胞壁の破壊と肺胞腔の拡大、肺胞エラスチン量の低下、肺CT値の低下、および呼気終末肺容量の増加が認められた。一方、single NOS-/-マウスおよびdouble NOSs-/-マウスにはこれらの異常は見られなかった。CAGE sequencingおよびELISAによる解析では、triple n/i/eNOSs-/-マウスにおける自然発症肺気腫の機序の一部にWnt/β-catenin経路のdown-regulationが関与していることが示唆された。以上、本研究では、triple n/i/eNOSs-/-マウスが自然発症肺気腫を呈していることを初めて明らかにした。本研究の結果から、NOSs系は肺気腫の発症予防に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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Scientific Reports
巻: 11 ページ: 22088
10.1038/s41598-021-01453-6
https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/29461/