研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主な原因は喫煙であるが、発症率は喫煙者の20%程度である。そのため、喫煙感受性を決定する遺伝子の存在が想定されているが、α1-アンチトリプシン欠損症を除いては確定したものはない。しかし、喫煙によってもたらされるアポトーシスによる細胞死はCOPD発症に中心的な役割を演じている。我々の疫学研究によって、高ホモシステイン血症は呼吸機能の低値と関連しており、男性喫煙者において高ホモシステイン血症は呼吸機能の経年低下と関連することが示されている。さらに高ホモシステイン状態は生体において、小胞体ストレスを誘導すると考えられている。以上から、高ホモシステイン血症における喫煙曝露は、肺胞上皮細胞のアポトーシスを増加してCOPDを進展させる可能性が考えられた。昨年度、我々は培養肺細胞を用いた基礎実験による 検討を行い、ホモシステインとタバコ抽出液を添加して培養した培養肺細胞ではアポトーシスが増加した。さらに小胞体分子シャペロンであるGRP78やアポトーシスを誘導するCHOPの発現が増加することを示した。本年度はその他の小胞体ストレス蛋白質(IRE1alpha, eIF2alpha, ATF6)の発現を追加検討した。リン酸化IRE1alpha、リン酸化eIF2alpha、ATF6はホモシステインとタバコ抽出液の刺激でレベルが亢進することが確認された。次に小胞体ストレス緩和物質であるビタミンB12が、ホモシステインとタバコ煙刺激による小胞体ストレスを緩和するかを検討した。ビタミンB12は、ホモシステイン/タバコ煙抽出液の共刺激による GRP78, CHOP, IRE1alpha, eIF2alpha, ATF6の発現増加を有意に抑制することが示された。すなわち、ビタミンB12はタバコ煙による肺細胞における小胞体ストレスの緩和作用を有することが示された。
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