研究課題
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は末梢気道病変と気腫性病変が複合的に作用し、正常に復することのない気流閉塞を示す。今日のCOPD治療において、気腫性病変などの組織破壊・リモデリングの予防治療や再生治療は確立されていない。我々は、タバコ煙曝露COPDモデルマウスを用いた運動の気腫化抑制実験において、マイオカインであるIrisin(アイリシン)を介してnuclear factor erythroid 2-related factor2 (Nrf2)の発現増強による気腫化抑制効果を見出している。また、我々の健常喫煙者コホートにおいて気腫化進行にNrf2遺伝子多型が関与する結果を得ており、Nrf2の発現増強・活性化がCOPDの気腫化抑制・再生の治療戦略となる可能性がある。バルドキソロンメチルは、Nrf2を結合因子であるkeap1より解離させて、Nrf2活性化を促す。バルドキソロンメチルは、糖尿病性腎症患者を対象とした第2相臨床試験においてGFR(糸球体濾過量)の有意な改善と忍容性を示し、実臨床への導入が検討されている。本研究の初年度である2019年度では、バルドキソロンメチルのkeap1への作用をタバコ煙曝露COPDモデルマウスでの気腫化抑制のターゲットとなる気道上皮を用いてin vitroで検討し、タバコ煙曝露COPDモデルマウスでのNrf2発現増強・活性化剤の気腫化抑制効果の評価ならびに機序を解明の前段階実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
バルドキソロンメチルは、Nrf2を結合因子であるkeap1より解離させて、Nrf2活性化を促すが、その作用により抗酸化作用、抗炎症作用を生じると考えられる。2019年度では、バルドキソロンメチルのkeap1への作用を気道上皮細胞株BEAS-2Bを用いて、in vitroで検討した。具体的には、BEAS-2Bをサブマージで培養し、サブコンフルエント状態からタバコ煙抽出液(Cigarette smoke extract; CSE)にて刺激する際に、バルドキソロンメチルや他のNrf2活性化剤で前処置し、Nrf2の活性化を起こして、抗酸化能、抗炎症作用の発生機序を検討した。
in vitroでの基礎実験の結果を参考に、引き続きタバコ煙曝露COPDモデルマウスでのNrf2発現増強・活性化剤の気腫化抑制効果の評価ならびに機序解明を目的としてin vivo実験に移っていく予定である。具体的には、我々がすでに確立しているタバコ煙曝露COPDモデルマウス(C57BL/6マウス)を用い、タバコ煙発生装置(SG-300)を用いる。バルドキソロンや他のNrf2活性化剤の投与濃度等は2019年度の基礎実験で検討された濃度を準用する予定である。
実験試薬等購入の物品費として助成金を使用したが、2621円の残余が生じた。2020年度の実験試薬等購入の物品費として2020年度分助成金と合わせて使用する予定である。
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