妊娠時ストレスによる成人後高血圧発症に対する治療可能性の検討を最終目的とする。申請者は先行研究において妊娠時低栄養ストレス(母体糖質コルチコイド(GC)作用の過剰)が血圧中枢特異的に成長後に残存するエピジェネティック変化(DNAメチル化酵素の発現低下とDNAメチル化の低下)をきたし、成長後の高血圧発症を惹起することを示した。今年度は妊娠時デキサメサゾン投与による胎児期ストレスモデルについて腎尿細管での高血圧発症機序の解明と治療の可能性を検討した。同モデルでは成人後肥満、食塩感受性高血圧を発症するが、このとき腎皮質においてNa再吸収を担う輸送体の発現上昇を認め、中枢でのAT1受容体の発現上昇の下流として機能している可能性が示唆された。この発現上昇の機序として腎でのGC受容体および鉱質コルチコイド(MC)受容体の寄与を検討した。3週齢からのGC受容体拮抗薬投与ではこの上昇は抑制されず、また尿細管特異的GC受容体欠損マウスにおいても発現に変化はなかった。一方3週齢からのMC受容体拮抗薬の投与で抑制された。3週齢から6週齢までの短期的なMC受容体拮抗薬の投与では10週齢における発現上昇は抑制されず、残存効果は認められなかった。 また、前年度に続き成人マウスにおける生理的GCの作用の解析を行った。尿細管特異的GC受容体欠損マウスへのコルチコステロン投与により発現上昇する遺伝子についての解析ではコルチコステロンのGC作用に依存する下流遺伝子の発現低下が認められた一方、一部の下流とされる遺伝子の発現には変化がなく、MC作用に依存していると考えられた。興味深いことにGC作用依存と考えられる遺伝子には大きな日内変動が見られた一方、MC依存の遺伝子では大きな日内変動は認めらず、血圧の日内変動へのGC作用の影響が示唆された。
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