研究課題/領域番号 |
19K08675
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
辰川 英樹 名古屋大学, 創薬科学研究科, 助教 (10565253)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / タンパク質架橋酵素 / トランスグルタミナーゼ / 腎線維化 / 尿細管上皮細胞 |
研究実績の概要 |
腎線維化は組織に細胞外マトリクスが過剰に蓄積し、正常な機能が失われる疾患である。腎線維化の病態初期では、腎尿細管上皮細胞の上皮間葉転換(EMT)や細胞死が病態形成の起点として考えられている。これまでの研究により、病態初期においてこのような尿細管上皮細胞の形質転換が、皮膚型のタンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼ(TG1)により制御されることを見出しており、この分子機構の解明を目指し、本年度は以下の3つの点について実験を実施した。<BR> ① 尿細管上皮細胞株HK-2を播種し、TG1に特異的なsiRNAを用いて遺伝子発現を抑制した後にTGF-βやH2O2処理によるEMTや細胞死を誘導したところ、TG1は上皮細胞に対して保護的に働き、同一ファミリーの別のアイソザイムであるTG2はTGF-βの作用因子として働くことが示された。 ② TGF-βやH2O2処理したHK-2に架橋酵素のリジン残基側の基質であるビオチン標識一級アミンBPAを添加して、EMTや細胞死誘導時においてTGase活性により取り込まれるBPA修飾タンパク質の経時的な変化を検出した。EMTや細胞死誘導処理の12時間後にBPA修飾タンパク質が増大したことから、EMTや細胞死の誘導に伴いTGaseの活性が上昇し、特定のタンパク質を基質として架橋することにより、EMTや細胞死誘導機構を制御することが示唆された。今後はこれらのBPA修飾タンパク質を精製し、網羅的な同定解析を目指す。 ③ TG1の全身欠損マウスは表皮の形成異常により致死性であるため、Creレコンビナーゼにより時期や細胞種特異的にTG1を欠損することが可能なTG1flox/flox 変異マウスをCRISPRにより作製した。現在、同マウスとタモキシフェンにより制御可能なCreERT2もしくは尿細管特異的に発現するgGT-Creの変異マウスと掛け合わせを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
尿細管上皮細胞での表皮型タンパク質架橋酵素の実態解明のために提案した以下の点についての進捗状況を示す。<BR> 架橋酵素の発現・活性化が尿細管上皮細胞のEMTおよび細胞死において、in vitro実験でのおおよそどのタイミングで発現・活性が上昇するのかについて情報を得た。また、架橋酵素の活性化に伴い修飾されるビオチン化ペンチルアミン(BPA)を指標として、特定の時期に特異的なバンドが増加することを見出した。架橋酵素が発現・活性化する制御機構については、詳細な解析がまだ出来ていないものの、上記の内容を加味して、概ね順調に進展していると考える。<BR> TG1を時期・細胞特異的に欠損するためのTG1flox/floxマウスについては、CRISPRを用いて既に作製済みであるため、当初の計画以上に実験が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
TGF-βもしくはH2O2処理した尿細管上皮細胞において、EMTおよび細胞死を誘導する際の架橋酵素の発現・活性化の経時的変化については検証済みであり、今後は同条件において、EMTや細胞死のシグナル伝達機構の特定、プロテオーム解析による架橋される基質タンパク質の網羅的同定を行っていく。<BR> Creレコンビナーゼ誘導性のTG1欠損マウスについても既に作製済みであり、早期に対象のCreマウスとの掛け合わせが終了する見込みであるため、完成した変異マウスを用いて腎線維化の病態モデルを誘導し、順次表現型解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況に記載したように、尿細管上皮細胞株のEMTおよび細胞死の実験系の確立に時間がかかり、実験状況から架橋酵素活性の経時的変化の検証実験を優先させたため、活性化機構に関する実験は実施しなかった。このため、研究費の一部を次年度に繰り越した。
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