研究課題/領域番号 |
19K08676
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 規利 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (90716052)
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研究分担者 |
前田 佳哉輔 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (00836306)
丸山 彰一 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10362253)
古橋 和拡 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (50835121)
勝野 敬之 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (60642337)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 脂肪由来幹細胞 / エクソソーム / 敗血症 |
研究実績の概要 |
核酸医薬は、昨今開発が進む抗体医薬や細胞医薬に比して安価に安定的に生合成され、一度定めたプラットフォームを用いることによって、様々な疾患に応用可能な治療薬として注目を集めている。我々は、生体内に存在する自然のRNAi機構であるmicroRNA(miRNA)の治療的応用を目指し、過去においてPolyethylenimine (PEI)をドラッグデリバリーシステムとして用い、NF-κBを負に制御するmiR-146aを投与することで、敗血症モデルマウスの高サイトカイン血症を抑制し、生存率を高める事に成功してきた。 一方細胞治療は、一部すでに実用化も進んでおり、様々な臨床的効果が期待されているが、核を含む細胞を体内に投与する事で、拒絶や癌化といったリスクが危惧されている。そこで細胞自身を投与するのではなく、細胞の放出する細胞外小胞、とくにエクソソームに着目し、エクソソームを投与することで細胞投与と同等の効果を認めたとする報告が多く見られるようになってきている。 本研究は、当科で細胞治療研究として取り組んできた脂肪由来幹細胞(ASC)由来エクソソームを、それだけで投与するのではなく、治療効果をすでに確認しているmiRNAと組み合わせることで、治療の相乗効果を狙った新しい治療プラットホームの開発を目的としている。 動物実験の解析により、投与したmiR-146a 発現プラスミドの作用点は脾臓であることが判明している。本年度においては、先行研究で用いたmiR-146a発現プラスミドは生体応用し難いため、成熟miRNAおよび人工核酸においても同等に脾臓がターゲットとして治療効果を得られるかを中心に検証すべく研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脾臓は二次リンパ節としては最大で、敗血症の発症において抗原提示、免疫の増幅、全身性へのサイトカイン産生の主たる臓器として役割を持っている。先行研究においてはmiR-146a発現プラスミドを用いており、発現に時間がかかるとともに生体の核内に遺伝子が導入されてしまうことになるため、一過性発現かつ即効性のある成熟miRNAを用いて、脾臓での取り込みを確認した。 まず成熟miRNAを、PEIをドラッグデリバリーシステムとして脾臓への直接注射を行い、脾臓に投与後24時間をピークに48時間まで検出可能であることを確認した。脾臓に直接投与した場合、ごく一部合流した門脈を介して肝臓においても検出されたが、腎臓、肺には影響を及ぼさなかったため、他臓器への影響は限局的であることが示唆された。また同様に先行研究で明らかになったmiR-146aの脾臓マクロファージへの取り込みに関しても、F4/80による脾臓細胞のセレクションにより証明した。 次に盲腸結紮穿孔モデルによりマウスに敗血症を起こし、同様にmiR-146aを投与した所、対照群(スクランブル配列)と比較して、Cr, BUN, AST, ALT, LDHを低下させることが可能であった。ただし、死亡率はmiR-146a投与群でむしろ悪化しており、治療により死亡を増やすが、生存した群においては治療効果を示すという結果となった。 さらによりエクソソームに近いと考えられる、リポソームをドラッグデリバリーシステムとして用いた治療実験において、現時点で治療効果は確認できていない。
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今後の研究の推進方策 |
マウス盲腸結紮穿孔モデルに置いて、miR-146a脾臓注射が治療効果を示す一方で死亡率を高めた理由の考察として、miR-146aが脾臓のマクロファージに取り込まれるところは確認されており、そのNF-κB抑制作用によりサイトカイン産生を抑制することから、(1)腹腔内の感染、菌血症に対する炎症の初期反応が抑制されてしまった可能性、(2)より晩期の免疫抑制によりsecondary infectionを引き起こした可能性の両面が考えられる。 そもそも先行研究において効果が見られた原因としては、敗血症晩期の過剰な免疫反応としてのサイトカインストームを抑制するところにあり、感染成立初期の特に自然免疫の反応を抑制してしまった場合は最近の増殖を抑えきれず、そのまま死に至ると考えられるし、晩期の免疫力が正常に戻った後過剰な免疫抑制を起こした際は、二次感染で死亡する。つまり投与するタイミングが非常に重要であり、我々の先行研究においては、敗血症を起こす前に事前投与していたが、miR-146a発現プラスミドであったことから、効果の発現に時間がかかり、時期としてちょうど首尾よくサイトカインストームを抑制した可能性がある。 臨床応用に関しては、事前投与は困難であることから、今後は(1)の可能性を考慮して、敗血症モデル作成直後に投与すするのではなく、数時間空けて投与することで反応を確認していく予定である。 また、投与方法として脾臓直接注射は多臓器への影響が少なくより選択的に治療対象とする脾臓マクロファージに取り込まれるが、生体に与える侵襲も高い。よって今後は静注、腹腔内投与と言った別経路による治療を検討し、条件を確定していく予定である。
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