研究課題
血漿ヘパリンコファクターII(HCII)は、内因性のトロンビン阻害因子であり、全身のマトリックスに存在するデルマタン硫酸と協調することで、トロンビン-トロンビン受容体系の活性化を抑制する。腎糸球体における過剰なトロンビン受容体の活性化は、メサンギウム細胞の増殖や、腎間質組織の線維化を促進するため、糖尿病性腎症の悪化を来すが、我々は、HCIIが、腎でのトロンビン阻害作用によって、糖尿病性腎症の発症やその進展抑制をもたらすとの仮説を立てた。臨床研究として、徳島大学病院およびJA徳島厚生連阿南医療センターにおいて糖尿病で加療中の成人男女計310名の血漿HCII活性の測定を行い、糖尿病性腎症の糸球体障害マーカーとして、尿中アルブミン・クレアチニン比(uACRおよびLog-uACR)、尿細管障害マーカーとして尿中L型脂肪酸結合蛋白・クレアチニン比(uL-FABPVR)を測定し、臨床交絡因子のデータも同時に収集し、各のマーカーについて血漿HCII活性を含めた交絡因子を変数として、多変量解析を行なった。横断的解析では、血漿HCII活性は、uACRおよびlog-uACRと独立した負の相関を示した。一方、uL-FABPCRとは有意な相関を示さなかった。また、横断解析に登録した症例のうち、1年後のuACRの測定を行なった201例に対してuACRの年間変化量とベースラインの血漿HCII活性について、検討したところ、血漿HCII活性は有意にuACRの年間変化量と負の相関を示した。これらの結果は、いずれも投与薬剤の影響で補正しても変わらなかった。以上のことからHCIIはアルブミン尿を主徴とする糖尿病性腎症の糸球体障害における防御因子かつ腎症進展予測のバイオマーカーとなる可能性が示された。この結果は、J Diabetes Investig. 2021(12):2172-2182. にて誌上発表した。
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Journal of Diabetes Investigation
巻: 12 ページ: 2172~2182
10.1111/jdi.13602