研究課題
急性腎障害 (AKI) のバイオマーカーであるneutrophil gelatinase-associated lipocalin (NGAL) の血中濃度は、肥満者および肥満マウスにおいて上昇し、白色脂肪組織におけるNGAL遺伝子発現と連動している。エネルギー代謝におけるNGALの意義を明らかにすることを目的として、野生型およびNGAL欠損マウスに高脂肪食あるいは寒冷暴露負荷を行った。NGAL欠損マウスでは、エネルギー消費の亢進と褐色脂肪の活性化がより強く起こり、肥満の抑制、体温低下の抑制を招き、内因性NGALは交感神経系と熱産生を負に制御していることが明らかとなった。今回、内因性NGALが脳内体温中枢~交感神経を抑制しているのか、褐色脂肪組織自体の交感神経シグナル感受性を抑制しているのかを推測するために、野生型およびNGAL欠損マウスに寒冷刺激を行い、褐色脂肪内のカテコラミン含量を測定した。その結果、寒冷暴露後のNGAL欠損マウスではノルアドレナリンの含有量がより強く低下しており、交感神経終末のノルアドレナリン放出が亢進していると考えられた。一方で不死化褐色脂肪株にカテコラミンを添加すると、p38MAPキナーゼのリン酸化とuncouplingprotein1 (UCP1) の発現誘導が見られたが、この実験系にNGALを共存させても変化は見られなかった。このことから血中NGALの作用点は褐色脂肪よりも交感神経系であることが示唆された。尿中NGALは、尿中L-FABPとは異なり、脱水・腎前性AKIでの上昇は軽度であるという特徴を有している。脳外科手術後、突然発症した急性膵炎による乏尿性AKIにおいても、早期の尿中NGAL上昇は軽度で、腎実質性AKIを除外し大量輸液を行う判断に有用であった症例を報告した。また免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を用いたがん治療を行った場合に、副作用として急性尿細管間質性腎炎 (ATIN) が起こることがあるが、この病態で、尿中NGALが上昇し、ステロイド治療により低下した2症例を報告した。
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