研究課題/領域番号 |
19K08684
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
衣笠 哲史 東北医科薬科大学, 医学部, 講師 (80796342)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腎虚血・再灌流障害 / 急性腎障害 / ギャップ結合 |
研究実績の概要 |
当研究では急性腎障害や腎移植における後期移植腎機能障害など、腎臓内科領域において重要な臨床的病態に関わる主要な機序の一つである腎虚血再灌流障害(renal I/R)において、connexinの一つであるconnexin 43(Cx43)の果たす役割を解明することにより、急性腎障害や移植腎機能障害における新たな治療標的を見出し、有効な予防・治療戦略の開発を目指す。129/Sv野生型マウス(WT)とCx43ヘテロ接合体ノックアウトマウス(Cx43+/-)の腎に虚血・再灌流を施したところ、WTでは髄質外層外帯(OSOM)において腎虚血後24~48時間をピークとして大量の好中球浸潤が見られ、対照的に72時間後では髄質外層内帯(ISOM)を中心に高度のマクロファージ浸潤を認めた。腎ホモジネートのリアルタイム定量PCR法では、虚血後3時間の段階でCx43、HIF1α、galectin-3の発現増加が認められた。続いてMCP-1とKim-1が増加し、PCNAとVCAM1は遅いタイムポイントにおいて増加を認めた。免疫組織染色では近位尿細管のS3セグメントにCx43の染色を認めた。また、PCR法でNGAL,HIF1αとgalectin-3のmRNAの有意な減少を認めた。さらに、Cx43+/-マウスでは虚血後48時間でOSOMの好中球浸潤が80%と著明に減少しており、組織像の改善と、血中BUN・クレアチニン値の有意な低下を認めた。このように、我々はrenalI/RにおけるCx43の発現増加は種々のサイトカインや炎症性マーカーの発現量の変化との関連が認められ、Cx43+/-マウスにおいて腎機能と腎組織学的所見が改善することを発見し、本研究で更に詳細な検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当研究は腎臓の各種細胞、具体的には近位尿細管上皮細胞、血管内皮細胞、好中球の3種の細胞に関しmagnetic beads付き抗体と磁界を用いて単離し発現遺伝子などを解析することが目的であり、研究開始当初は細胞一つ一つに関する実験を順番に行う予定であった。しかし、この実験は技術的な問題により予定通りに遂行することができなかった。当大学にBD FACS Ariaセルソーターを使用できる環境があったため、我々はmagnetic beadsに代えて、セルソーターにより3種類の細胞を一つの実験で同時に単離する手法に切り替えた。この手法では一つの腎臓より3種類の細胞を同時に採取できるため、予定よりも実験が迅速に進行し、研究を予定より短い期間で完了させることができる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、magnetic beadsの代わりにBD FACS Ariaセルソーターを用いて複数の再灌流時間で作成したマウス腎虚血再灌流モデルを用い、腎臓の近位尿細管上皮細胞、血管内皮細胞、好中球の3種の細胞を採取してqPCR、免疫蛍光染色など各種の解析を行う。また、connexin 43の129X1/Svの系統を用いたヘテロ接合体ノックアウトマウスでは腎虚血再灌流障害の軽減が見られるという知見を既にフランスInserm-U1155における過去の実験で得ており、これらのマウスにおいても同様の実験を行い、発現遺伝子に差が見られるかどうかを検討する。また、単離したPTEC、内皮細胞の初代培養細胞を使用しIn vitro 低酸素実験モデルを用いて、GJC またはHC を介した細胞間コミュニケーションの阻害による影響を検証する実験も検討している。野生型マウスのPTEC または内皮細胞を単離し、初代細胞培養を行い、免疫蛍光法でConnexin 43 の存在を確認した後、得られた細胞を用いて低酸素実験を行い、GJC またはHC の阻害薬を投与し、定量PCR 法とウェスタンブロッティングにより様々な分子の発現を評価し、GJC/HC 阻害薬投与群と非投与群の表現型を比較する。実際に実験を進めた結果、一部の実験はmagnetic beadsを用いる方が適切であると判明する可能性があり、両方の実験手法を併用する必要が生じる場合も考えられる。また、当初解析予定であった以外の細胞を解析することも検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
元々は腎臓の近位尿細管上皮細胞、血管内皮細胞、好中球の3種の細胞に関しmagnetic beads付き抗体と磁界を用いて単離し発現遺伝子などを解析予定であり、各細胞に関する実験を順番に行う予定であった。しかしこの実験は技術的な問題により予定通りに遂行することができず、当大学にBD FACS Ariaセルソーターを使用できる環境があったため、セルソーターにより3種類の細胞を一つの実験で同時に単離する手法に切り替えた。そのため当初の計画以上に研究は進展しており、そのため実験に必要な物品・試薬、また各種細胞を標識する抗体等が予定よりも早期に必要となった。その購入のため前倒し支払請求を行い、実験に使用する試薬・物品を購入した。実験の手法は変更したが、腎臓の3種の細胞を単離し、解析を行うという目的自体は変わらず、予定通りに進めていく所存である。
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