研究実績の概要 |
本研究は急性腎障害や腎移植における後期移植腎機能障害など、腎臓内科領域での重要な臨床的病態に関与する腎虚血再灌流障害(RIRI)の機序を解明することを目指した。特に、その中でconnexin 43(Cx43)の果たす役割を明らかにし、新たな治療標的の探求と予防・治療戦略の開発を推進した。129/Sv野生型マウス(WT)とCx43ヘテロ接合体ノックアウトマウス(Cx43+/-)の腎に虚血・再灌流を施し、免疫応答と遺伝子発現の変化を詳細に観察した。WTマウスでは腎虚血後24~48時間をピークに大量の好中球浸潤が確認され、72時間後にはマクロファージの大量浸潤が髄質外層内帯(ISOM)を中心に認められた。腎ホモジネートのリアルタイム定量PCR法による解析では、虚血後3時間でCx43、HIF1α、galectin-3の発現が増加し、その後MCP-1とKim-1、更に遅いタイムポイントでPCNAとVCAM1の増加が認められた。また近位尿細管S3セグメントにおけるCx43の発現が免疫組織染色により確認され、PCR法でNGAL, HIF1α, galectin-3のmRNAの有意な減少が確認された。特筆すべきは、Cx43+/-マウスでは虚血後48時間でOSOMの好中球浸潤が80%と著明に減少し、組織学的改善と血中BUN・Cr値の有意な低下が認められたことである。これらの結果からRIRIにおけるCx43発現増加が腎機能と腎組織学的所見の改善と関連していることが示唆された。種々の研究環境の制約やCOVID19のパンデミックにより予定通りに進捗しなかった面が多々あり、実験計画を大幅に見直すことを余儀なくされたが、それでも腎の各細胞を単離し行った実験では良好な結果が得られ、現在論文執筆中であり、近日中に科学論文誌への投稿を予定している。
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