研究課題/領域番号 |
19K08686
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
楊 國昌 杏林大学, 医学部, 教授 (70255389)
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研究分担者 |
清水 章 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (00256942)
田中 絵里子 杏林大学, 医学部, 助教 (80439827)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ネフローゼ / 創薬 |
研究実績の概要 |
申請時の計画1(ネフローゼ作成と臨床・病理解析)を行った。 ネフローゼ作成と臨床・病理解析については、申請時点での基礎実験の結果により、蛋白尿の持続期間の長さが、微小変化から巣状糸球体硬化に至る危険視因子であるという理解のもとに遂行された。しかし、本年度のリコンビナント皮下免疫マウスにより、新たな臨床病理学的知見がえられた。本年度では、尿蛋白に加えて血尿についても解析を加えた。その結果、全ての個体(20匹)が6~7週後から蛋白尿を示したが、17週以降から血尿を示す群(8匹)と示さない群(12匹)に分類された。両群における蛋白尿の発症時期に差はなかったが、血尿群の尿蛋白量は、非血尿群のそれに較べて有意に高度であった。この血尿群の組織像は全て巣状糸球体硬化を呈し、非血尿群は30週までにおいても微小変化であった。以上のことから、本モデルは、微小変化型ネフローゼと巣状糸球体硬化型ネフローゼの異なる病型を作出でき、臨床経過から病型も予測可能であることが判明した。 次に、障害糸球体内のシグナリング系を含めたパスウェイ解析のために、マウス糸球体単離を行い、質量解析を行った。巣状糸球体硬化型の糸球体単離は困難であるため、蛋白尿発症2週後の糸球体を材料とした。その結果、ネフローゼの単離糸球体がコントロールに比して2倍以上の高発現を示した187の分子のうち、ミトコンドリア関連分子が88(47%)と高率に観察された。以上のことは、本ネフローゼの病態に、CRB2を足場としたポドサイト内のシグナリング活性化によるエネルギー消費とミトコンドリア機能異常とのクロストークが関与することが強く推測された。これは、ヒトネフローゼの病態における新知見であり、新規抗ネフローゼ薬の標的パスウェイの一つは、ミトコンドリアエネルギー産生系であることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画は、ネフローゼ作成と臨床・病理解析および、病的糸球体内での蛋白分子の変化を質量解析で検討することであった。 ネフローゼ作成と臨床・病理解析については、申請時点での基礎実験の結果と異なっていた。すなわち、当初は、蛋白尿の持続期間の長さが、微小変化から巣状糸球体硬化に至る危険視因子であるという理解であった。しかし、本年度の実験により、蛋白尿の発症時期に差はなかったが、血尿併発群は100%の確率で巣状糸球体硬化を示し、さらにそれらの尿蛋白量は非血尿群に比して有意に高値を示した。逆に、非血尿群は長期間の経過を経ても、100%の確率において微小変化を呈した。以上のことから、本モデルでは、微小変化型ネフローゼと巣状糸球体硬化型ネフローゼの異なる病型を作出でき、その鑑別のバイオマーカーは、蛋白尿の程度と血尿の併発の有無であることが判明した。基礎実験と若干異なる臨床病理学的観察にいたったが、本結果からむしろ、本モデルでは臨床的に2つの病型のネフローゼを事前に予測できることが判明し、この臨床病型は今後の本研究の進行に有益であると考える。 病的糸球体内での蛋白分子の質量解析については、Klein研究室への検体輸送の問題があり、当施設での質量解析装置を用いて検討した。その結果、コントロールに比して、ネフローゼの単離糸球体が2倍以上の高発現を示した187の分子のうちミトコンドリア関連分子が約半数と高率に観察された。この結果は、ヒトのネフローゼの病態と整合性を示すと考えられる。本研究では、質量解析装置は引き続き、施設のものを使用する。
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今後の研究の推進方策 |
計画2のネフローゼ患者血清中のCRB2結合物探索を行う。 真の血清中の難治性ネフローゼ惹起因子の探索は、今後のネフローゼ診断の最重要のバイオマーカーである。令和2年度では、CRB2に結合する生体内の生理的液性因子の探索を行う。すでに報告済みのCRB2発現細胞に患者血清を反応させ、CRB2細胞外ドメインへの結合物を、FLAGを介したプルダウンで回収し、沈降物の同定を質量解析で行う。さらに、作成済みのCRB2発現プラスミドを応用し、CRB2結合分子の同定のために、yeast-2-hybrid スクリーンを行う。後天性ネフローゼの液性因子の分泌細胞は従来からT細胞が推測されていることから、本スクリーンでの探索臓器は胸腺とする。レクチン蛋白が候補の可能性が高い。 CRB2結合物としての液性分子の候補が得られたのち、該当分子のcDNAをクローニングし、His-tag 含有プラスミドに導入し、HEK293細胞に安定発現する株を作成する、この培養上清をHis-tagカラムで精製し、リコンビナント成分を得る。これを、マウスに導入し、ネフローゼの発症を確認する。
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