研究課題/領域番号 |
19K08690
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
本田 一穂 昭和大学, 医学部, 教授 (10256505)
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研究分担者 |
康 徳東 昭和大学, 医学部, 助教 (00571952)
高木 孝士 昭和大学, 大学共同利用機関等の部局等, 講師 (10774820)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血管内皮 / グリコキャリックス / 糖鎖 / シアル酸 / ゲムシタビン |
研究実績の概要 |
令和2年度は,培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて,ゲムシタビン(GEM)による薬剤性血管内皮傷害モデルを確立し,傷害時の内皮細胞の反応機構を解析した。GEMはDNA伸長阻害作用を持つ抗癌剤で膵癌などに適応があり,近年臨床的な使用が拡がっている。GEMによる副作用として微小血管症などによる腎障害が報告されているが,その詳細な機序はわかっていない。そこで,まず培養の比較的容易なHUVECの増殖期とコンフルエント期において,GEMを0.05μM~1mMの濃度で2日間暴露し,細胞増殖能をMTTアッセイで,グリコキャリックス(GCX)の性状を,WGA,SNA,RCA-1などのレクチン染色で,内皮の機能分子としてPECAMとVEGF-R2の発現を免疫染色で評価した。また,末端シアル酸の転移酵素であるα2,6-シアル転移酵素(ST6Gal-I)の発現をmRNAで検討した。GEMの増殖抑制作用を表すIC50は増殖期:0.05μM,コンフルエント期:50μMで,コンフルエント期は増殖期に比し感受性は1/1000であった。しかし,GEM 5μM以上で細胞の萎縮や細胞間離開を認め,レクチン染色で末端シアル酸を表すSNAの減弱や脱シアル酸化によるガラクトースの露出を表すRCA-1の染色性が増強しており,GCXを構成する糖鎖の末端で脱シアル酸化が起きていることが示された。一方ST6Gal-IのmRNA発現は5μMで変化はないが,50μMで低下していた。なお,PECAMやVEGF-Rの免疫染色性やmRNA発現に変化はなかった。PECAMは末端シアル酸が内皮細胞間の接着に関与し,さらにVE-cadherinやVEGF-R2と共役することで内皮細胞の機能を制御している。以上より,GCXの糖鎖末端の脱シアル酸化が,GEMによる内皮細胞傷害に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
培養内皮細胞を用いた実験系で,内皮GCXの糖鎖の性状をレクチン染色によって評価する手法が確立された。また,内皮細胞間の接着に関与するPECAM, VE-cadherin, VEGF-R2分子の局在とmRNA発現の変化を評価し,GEMの内皮傷害の形態学的な変化と機能分子の関係にGCXの糖鎖末端のシアル酸が重要であることが示され,内皮細胞の機能の恒常性に重要なGCXの機能とその制御機構の一端が解明された。しかし,糖鎖末端の脱シアル酸化現象の詳細な機序については,シアル酸の転移酵素であるST6Gal Iの機能の低下なのか,内皮細胞が持つシアリダーゼやMMPなどの分解酵素の亢進なのか,あるいは他の要因なのかが未解決である。さらに,in vivoのマウスモデルを用いた検討が出来ておらず,本研究の目標である「内皮GCX強化を戦略とする新たな血管保護療法の開発」についての具体的な糸口の解明に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
血管病変の予防や進展抑制は,動脈硬化を背景とする多くに疾患に共通する課題である。また,糖尿病,高脂血症,肥満などの生活習慣病とされる代謝異常も血管内皮傷害を介して各臓器の障害を引き起こすと考えられる。最終年度は,血管内皮GCXの観点から血管を保護する方策について,これまで,in vitroの実験系で明らかとなった知見を基に,in vivoの実験系で検討を加える。In vivoの実験モデルとしては,STZ投与による糖尿病マウスモデルあるいは糖尿病自然発症マウスであるNODを用いて,腎を中心に各血管レベルの内皮GCXの状態を,光顕・電顕レベルで検討する。内皮GCXの糖鎖の性状はレクチン染色で,内皮の機能分子(PECAM, VEGF-R2, VE-cadherin)は免疫染色で評価する。また,GCX糖鎖に関連したST6Gal-I,sialidase, MMPなどについても免疫染色やウエスタンブロット法,mRNA発現などで検討する。治療介入として,抗酸化作用が知られ,魚油などに豊富なeicosapentaenoic acid (EPA)を食餌に添加し,血管内皮GCXの状態や糖尿病による腎病変(糸球体・尿細管・血管)への影響を検討し,本研究の目的である「傷害から内皮を保護するためのGCX強化療法の戦略」を考案する手がかりを得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,主に培養内皮細胞のGCXの検出や形態機能評価を中心に行っており,当初予定していたマウスDMモデルを用いた検討が行えていない。このため,未使用額が発生している. 次年度の研究費は,in vivoの実験検体におけるGCX検出や糖鎖成分の解析のために必要なレクチンや抗体などの試薬の購入,マウス購入、飼育費、EPA含有飼料費,ならびに病理学的解析ならびに電子顕微鏡的解析に必要な試薬や物品の購入に使用する.研究成果の発表や情報交換のための旅費,論文の英文校正料なども使用する予定である。
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