糖尿病患者の生命予後を改善させるためには、糖尿病性腎臓病を含む糖尿病性血管合併症の発症・進展阻止は重要な医療課題である。近年、糖尿病患者の高齢化と糖尿病治療成績の向上に伴いアルブミン尿の程度に関係なく腎機能が低下している患者が増加していることが新たな課題となっている。そのため、腎機能低下あるいは心血管イベントを予測できる鋭敏な新規バイオマーカーの探索が急務である。 本研究課題は、研究代表者らのこれまでの基礎・臨床研究から得られた知見に基づき、細胞内エネルギー代謝維持に不可欠なNAD+代謝経路に着目し、NAD+代謝産物の尿中排泄量が、腎機能低下あるいは血管合併症の新規バイオマーカーとなる可能性を検証することを目的として実施している。 今年度は、2003-2004年に滋賀医科大学で実施している糖尿病血管合併症長期前向き経過観察研究に参加された日本人2型糖尿病患者200名(平均年齢 61.6歳)の長期保存尿サンプルを用いて、NAD+、NADH、1-MNA (1-Methylnicotinamide)の3種類のNAD+代謝関連分子の尿中排泄量をHPLC-MS/MS法により定量測定を実施した。現在、尿サンプル採取時(2003-2004年)の各種臨床データとの相関・関連について統計解析を行っている。さらに、2019年時点までの死亡(n=21)・心血管イベント発症(n=47)・血液透析導入(n=12)に関するアウトカム情報と照合することで、これら代謝産物の尿中排泄量が2型糖尿病患者の予後に関する新規バイオマーカーとなりえるか検討を行う予定である。
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