研究課題/領域番号 |
19K08703
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前 伸一 京都大学, iPS細胞研究所, 特定拠点助教 (50749801)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 尿管芽 / オルガノイド / 拡大培養 |
研究実績の概要 |
胎生期の腎前駆組織である尿管芽は分枝を繰り返すことにより、集合管および下部尿路系に分化する。我々はすでに、腎臓発生過程を段階的に模倣することによって尿管芽構造を選択的に作製する独自の方法を開発している(Mae S., 2018)。さらに、その方法を改良することにより、これまでに報告のない、生体内の尿管芽と同様に幾度も繰り返される分枝形態形成と管腔構造を有する尿管芽オルガノイドの作製にも成功している(論文投稿中)。 尿管芽の分枝構造における幹部(trunk)が集合管に分化し、先端(tip)では非対称分裂により自己複製もしくはtrunkに分化する2種類の細胞系譜が産生される。したがって、分枝形態形成の過程において、尿管芽tipが幹細胞の役割を担っていると考えられている。実際、我々は分枝した尿管芽オルガノイドのtip部分を機械的に切離し、そこから分枝する尿管芽オルガノイドの再構築に成功している(論文投稿中)。これら成果から、ヒトiPS細胞から作製される尿管芽tip細胞の拡大培養法を確立すれば、そこから大量の分枝する尿管芽オルガノイドを供給可能となることが予想される。そこで、平成31年度(令和元年度)には、ヒトiPS細胞由来の尿管芽オルガノイドを単一の尿管芽細胞にまで解離し、尿管芽tip細胞を選択的に増殖させる方法の開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス腎臓発生において、超低密度リポタンパク質受容体(very low-density lipoprotein receptor; Vldlr)は、尿管芽tip領域でのみ発現していることが報告されている(Rutledge EA., 2017)。そこで、確立済の独自の方法で作製される尿管芽オルガノイドにおいてVLDLRが発現し、DiIで標識したVLDLがVLDLRを介して細胞内に取り込まれることを確認した。そして、フローサイトメーターを用いてDiI陽性および陰性の細胞を分取し、遺伝子発現解析によりDiI陽性細胞が尿管芽tip細胞であることを明らかした。これらの結果から、DiIで標識したVLDLの取り込みにより尿管芽tip細胞をモニタリングする方法を開発できたと考えられる。 尿管芽tip領域では、細胞の形状や密度を感知して細胞増殖を制御する転写活性化因子であるYAP/TAZが細胞質に局在していることが報告されている(Reginensi A., 2016)。また、YAP/TAZの局在は細胞外基質の硬さと密接に関連している。そこで、単一の尿管芽構成細胞をマトリゲルから成る軟らかいハイドロゲル上に播種したところ、尿管芽構成細胞はコロニーを形成し、尿管芽tip細胞マーカーであるRET発現が維持されることが分かった。また、YAP/TAZの細胞質への移行を促進する化合物であるThiazovivinを用いることで、DiIで標識したVLDLを取り込まない尿管芽trunk細胞がDiIで標識したVLDLを取り込む尿管芽tip細胞へと分化することを見出した。そこで、それらの方法を組み合わせたところ、ほぼすべての尿管芽構成細胞からDiIで標識したVLDLを取り込む尿管芽tip細胞コロニーを作製する方法を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
尿管芽オルガノイドに由来する単一の構成細胞から尿管芽tip細胞を選択的に増殖させる培養法を確立することができたが、尿管芽オルガノイドの再生には至っていない。そこで今後は、尿管芽tip細胞のみで構成されるコロニーにおいてどのようなシグナルが働くことで、尿管芽tip細胞の自己複製およびtrunk細胞への分化を同時に起こし、尿管芽オルガノイドを再生することができるのかを、マウスなど実験動物からの知見や腎臓以外の組織形成メカニズムを参考にしながら検証していく。 また、尿管芽tip細胞には自己複製能があることが知られているため、尿管芽tip細胞コロニーを単一の細胞にまで解離し、継代培養および凍結保存ができないか検討を行う。
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