研究課題/領域番号 |
19K08706
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山田 俊輔 九州大学, 大学病院, 助教 (10419608)
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研究分担者 |
中野 敏昭 九州大学, 医学研究院, 准教授 (10432931)
鳥巣 久美子 九州大学, 医学研究院, 准教授 (20448434)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血管石灰化 / 慢性腎臓病 / 骨格筋 / マイオカイン |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は、骨・血管・骨格筋相関の臓器連関に注目し、①各臓器が分泌する液性因子や機械的な刺激が相互に影響を与えあって各臓器の正常機能が営まれること、②各臓器が分泌する液性因子や機械刺激を治療介入によって変動させ、また、実臨床で使用可能な薬剤の投薬により、障害された他臓器機能を改善できることを慢性腎臓病(CKD)のコンテクストにおいて実証すること、③骨・血管・骨格筋相関の臓器連関に介入するCKDの新たな治療法を確立すること、である。
過去3年間で、アデニン及びワーファリンを用いたCKDマウスモデルにおいて、1) CKDの進展とともに、骨・血管・骨格筋が同期して障害されること、これらの臓器障害には相互に関連があること、2) リン負荷がこれらの障害に深くかかわる因子であること、リンの負荷/免荷によって臓器障害の程度が変動すること、リン酸exporterであるXPR1が骨格筋障害と血管障害において重要であること、3) CKDで高頻度に認める腸内細菌層の乱れと続発するTMAOの上昇が血管と骨格筋障害を起こすこと、4) CKDで認める低Na血症が血管と骨格筋を障害することを明らかにした。以上のことから、CKDにおいては、リン負荷を低減すること、腸内細菌叢の乱れを防ぐこと、水/Na負荷の調整が重要であることが治療戦略として重要であると結論できる。
また、病態解明の観点からは、骨・血管・骨格筋相関を担う実態としてmyokine (myostatinやPCG-1a など)に注目し、CKDに伴う病態によってこれらのmyokineの血管や骨格筋における発現量が変動し、CKD患者に対する治療介入としての可能性が示唆された。今後、リン負荷、浸透圧がどのような機序でこれらのmyokineを制御しているのか、解明のための実験を積み重ねる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去3年間の間に、①上記の骨・血管・骨格筋における臓器連関を実証するための動物モデル(CKDマウスモデル)の確立と適正化、その表現型の確認、②各臓器間の緊密な連関の実体として、新たにXPR1(リン酸トランスポーター)を同定したこと、XPR1のCKDにおける役割の解明、③腸内細菌叢によるTMAOの骨・血管・骨格筋連関における役割の解明、さらに④新たな臓器連関の実体として浸透圧を同定した。当初の予定を軌道修正しつつおおむね順調に成果が得られている。 2020年4月から2021年3月までは、XPR1はマウス大動脈に発現し、CKDの進展とともに低下すること、培養血管平滑筋細胞(VSMCs)におけるXPR1の発現低下は細胞外マトリックスの石灰化を増悪させることを明らかにした。また、XPR1はマウス骨格筋にも発現し、CKDの進展とともにXPR1の発現は低下することを確認した。次に、腸内細菌叢が産生するTMAOが培養VSMCsにおいて細胞外マトリックスの石灰化を促進すること、CKDマウスモデルにおいてTMAOの血中濃度が上昇していることを確認した。 さらに、高浸透圧培地が培養VSMCsの石灰化系において石灰化を抑制し、逆に、低浸透圧培地が石灰化を増悪させること、浸透圧変化の石灰化に与える影響がNCX1などのイオンチャネルであることを確認した。これらの浸透圧の変化によるVSMCの石灰化への影響は、浸透圧を担う分子やイオンの種類とは無関係であることも確認した。さらに、低浸透圧培地と高浸透圧培地で培養したVSMCsの遺伝子を用いたRNA sequencingの手法により、網羅的な遺伝子発現解析を行い、機械刺激で細胞膜上での発現が変動するイオンチャネル群を同定した。これらのイオンチャネルがどのような機序で石灰化過程に関与するのかを明らかにするための培養細胞実験を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
基盤Cの最終年度にあたる2021年は、本研究の総仕上げとなる。過去3年間で今後の展開に期待が持てる成果が大いに得られたことを受け、実臨床に還元可能な形に昇華すべく、細部をさらにつめることを目標にしている。 まず骨・血管・骨格筋相関マウスモデルにおいて、塩化ナトリウム(NaCl)負荷量の多寡によって、骨障害、血管石灰化、サルコペニアに及ぼす影響をさらに明らかにしたい。特に、NaCl負荷量がmyokineの発現量に与える効果について詳細に明らかにしたい。Myokineの発現量を変動させるCKD特有の病態として、NaCl負荷/免荷にさらに注目する。NaCl含量の異なる特殊飼料を複数種準備し、既存の実験系を用いてin vivoでの影響を詳細に検討する。また、臨床で骨・血管・骨格筋相関に介入する治療手段として、アミノ酸代謝にも新たに注目し、特に分枝鎖アミノ酸がmyokine、vasculokine、osteokineに及ぼす影響を確認する。 培養細胞系においては、培養血管平滑筋細胞(VSMCs)および培養骨格筋芽細胞(MC3T3)を用いて、NaCl負荷/免荷、さらには浸透圧負荷/免荷の影響について、myokineとosteokine、さらには浸透圧変化で発現量が変化する、細胞膜に存在するイオンチャネルやトランスポーターの血管および骨格筋における役割について、CKDの病態形成との関わりの中で解明したい。 最後に、過去4年で得られた知見を総括し、CKD患者の骨・血管・骨格筋相関を踏まえたうえで、CKD患者に対する新しい治療戦略として本研究で得られた成果を提示し、CKD患者の生命予後の改善、ADLやQOLの向上につなげたいと考えている。
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