研究課題/領域番号 |
19K08707
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
谷川 俊祐 熊本大学, 発生医学研究所, 講師 (10726318)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ネフリン / iPS / 病態再現 / 糸球体 / 腎臓 |
研究実績の概要 |
腎臓の糸球体は血液を濾過して不要な物質を尿中に排出し生体の恒常性を維持している。ネフリンは糸球体の濾過膜 (スリット膜)を構成する主要タンパク質であり、その異常は蛋白尿を引き起こす。しかし濾過膜を直接修復して蛋白尿を消失させる根治的治療法は存在せず、レニン・アンギオテンシン系阻害剤などの間接的治療にとどまっている。我々は、先天性ネフローゼ患者由来のiPS細胞から糸球体を誘導することによって、濾過膜を含む初期病態を再現し、ネフリンの膜移行が疾患原因であることを証明した(Tanigawa et al. Stem Cell Reports, 2018)。そこで本計画では、糸球体濾過膜を再構築できる唯一の実験系であるこの誘導法を基盤にして、ネフリンタンパク質の動態メカニズム(タンパク質発現から膜移行局在、糖鎖修飾とリン酸化による成熟化、タンパク質代謝)を解明するとともに、スリット膜の形成及び再生を促進するシグナル・化合物の同定を目指す。本計画の知見は、先天性腎疾患の治療に留まらず、広く蛋白尿の低減に貢献すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、ヒトiPS由来ネフロン前駆細胞を用いて、糸球体ができる間にネフリンがどのような機構を経て成熟し膜に移行するのかを解明し、変異ネフリンのリン酸化を膜移行と成熟化のマーカーとして化合物を同定することを目的としている。そのためにヒトiPS由来腎臓オルガノイドを高い再現性で高効率に誘導する系が必要である。我々はこれまでにヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞の増幅培養法及び凍結保存法を開発している。これによりヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞を誘導する2週間の時間を省略し、ネフロン前駆細胞誘導法の技術を習得せずとも腎臓組織を作ることが原理的に可能となった(Tanigawa et al. Stem Cell Reports, 2019)。現在はこの増幅培養系を本研究に応用し、患者由来iPS細胞から誘導したネフロン前駆細胞を増幅し、薬剤スクリーニングやタンパク質解析といった多量のサンプルを必要とする実験に対応できるサンプル量を確保するための準備段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞の増幅培養法を患者由来iPS細胞に適用することで凍結ストックを整備し、ネフリンタンパク質の動態解析に必要な多数のサンプル数に対応できる量を確保する。それによりタンパク質解析、薬剤スクリーニングを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析費用の単価が高い質量分析等の実施に至っていないため。
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