研究課題/領域番号 |
19K08713
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
栗原 勲 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90338038)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミネラルコルチコイド受容体 / 糖代謝 / 腸管 |
研究実績の概要 |
腸管ミネラルコルチコイド受容体(以下MRと略す)の糖代謝への影響を明らかにするため、腸管上皮特異的MR欠損マウス(villin-CreマウスとMR-floxマウスの交配により作出、以下腸管MRKOと略す)およびコントロールマウス(以下Contと略す)に高脂肪食、カロリー制限食等の各種負荷を行い、体重の推移および耐糖能の比較検討評価を行ったが、サンプルサイズを大きくして検討を行っても、両群間の有意な差を示すことはできなかった。糖尿病性腎症の指標であるアルブミン尿についても、有意差は認められなかった。そこで、腸管MRが糖代謝に対して多面的機能を有していることを想定し、腸管MRKOおよびContから採取した空腸、回腸、結腸の組織を用いて、マイクロアレイ解析を行い、各組織におけるアルドステロン負荷前後の遺伝子発現変化を比較評価した。各組織におけるパスウェイ解析では、結腸では予想されたとおり、salt reabsorptionを中心としたミネラル代謝調節が腸管MRの主たる機能であることが示され、実際、ENaCβやENaCγなどの既知の腸管MR標的遺伝子が高いfold changeを示していた。一方、興味深いことに、回腸では、carbohydrate digestion and absorptionなど糖代謝に関連する機能が上位を占めていた。個々の遺伝子では、GLUT2やG6Paseなどが高いfold changeを示していた。その他にも、多くのSLCファミリーが腸管MR作用下で発現変化している結果が得られており、その生体における意義について解析を進めている。また、新規MR転写共役因子(corepressor)としてCasz1を同定した背景から、現在、腸管上皮特異的Casz1欠損マウスを作出し、腸管MRの作用過剰をもたらす動物モデルでも腸管MRの糖代謝への影響の検討を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腸管MRKOとContの比較において、当初は糖代謝に関連する表現型について差がみられていたが、サンプルサイズを増やしていく過程で、差が有意でないことが明らかになり、予想していた結論の方向性が変わってしまったため。誤った結論を出さないためにも、十分に時間をかけて結果の再現性を検討する必要性があったと考えており、やむを得ない研究の遅れである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進については、2つの方向性を計画している。 マイクロアレイ解析の結果から、腸管MR(特に小腸のMR)が何らかの形でエネルギー代謝を調節していることは明らかであり、その標的となっているSLCファミリーから予想される表現型に差がつきやすい環境負荷を行っていく。現在、ある負荷を行うことでエネルギー代謝に関連する表現型で腸管MRKOとContの間に差が出ることを見出しており、サンプルサイズを大きくして再現性の検証を行っている。 また、これまでは腸管MRKOモデルを用いた解析が主であったが、我々が明らかにした新知見に基づいた検討も計画している。研究者のグループは最近、Casz1という蛋白がMRの新規corepressorであることを示したin vitro解析の結果を論文報告した。現在、villin-CreマウスとCasz1-floxマウスの交配により、腸管上皮特異的Casz1欠損マウスを作出している。このマウスでは、腸管でMR作用が過剰となることが予想され、腸管MRKOでみられる表現型と真逆の表現型が得られることが予想される。Casz1のMR corepressor機能に関するin vivo解析としても、新規性・独創性が高い検討であり、エフォートを高めて解析を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬を一括購入したり、マイクロアレイ解析をある程度サンプルサイズをそろえてアレイチップを効率的に使用したりするなど、効率的な資金運用の工夫を行った。またマイクロアレイ解析を業者に依頼せず自力で行うなど、極力経費の削減にも努めた。これらの工夫・努力が、次年度に繰り越し分を捻出できた理由と考えている。 次年度の研究計画に記載したとおり、新たなマウスモデルの使用も始まり、最終年度は、飼料代等の経費が当初予定していた以上のコストになることが予想されるため、繰り越した資金は主にそちらの補填に使用する計画である。
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