糖尿病の重篤な合併症のひとつである糖尿病性腎臓病は進行するまで自覚症状を伴わないことが多い。近年の腎病理学的解析から糖尿病性腎臓病には多様な病理像が認められることが報告され、腎機能予後と相関を示す病理像の存在も明らかになりつつある。しかし腎生検の侵襲性の高さや合併症のリスク等ゆえ糖尿病性腎臓病と診断されて腎生検が実施されることは稀であり、非侵襲である尿検査によって糖尿病性腎臓病の予後を診断可能とする方法を開発する意義は大きい。そこで本研究では糖尿病性腎臓病の予後予測法の開発、あるいは早期診断法の開発を目指すことを目的に、申請者らが先行研究(Diabetes Res Clin Pract. 2019;147:37-46)にて見出した糖尿病性腎臓病関連タンパク質の尿中濃度と糖尿病性腎臓病の重症度、ならびに進行度との関連の検討を進めている。研究初年度は糖尿病性腎臓病関連タンパク質104種の尿中濃度を測定するためのmultiple reaction monitoring (MRM)測定系構築を試みた。MRM測定系における制約等の理由から、最終的に先行研究でのMS/MS解析にて検出されたペプチド領域を中心に75タンパク質由来106種のユニークペプチドを測定対象とした。次に、これら106種のペプチドを検出するためのMRM transition 318通りを決定し、内部標準ペプチド2種6 transitionを含めた324 transitionを測定するための液体クロマトグラフィー(LC)条件を検討した。上記の検討を経て確立したLC-MRM測定系を用いて、糖尿病性腎臓病患者尿検体、ならびに2型糖尿病患者尿検体中の当該タンパク質濃度測定を開始した。
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