研究課題
慢性腎臓病(CKD)の進展因子として、腎局所における脂質代謝異常の役割が重要視されている。腎臓の近位尿細管は脂質代謝と特に関連が深く、その詳細な調節機構の解明は、腎症の発症・進展メカニズムの解明に寄与すると考えられる。本研究では、細胞内栄養感知機構と言われているO-GlcNAc修飾に着目し、「O-GlcNAc修飾が近位尿細管における脂肪酸代謝調節に関与する」との仮説のもとに以下の検討を行った。O-GlcNAc修飾を触媒する酵素Ogt遺伝子の近位尿細管特異的欠損マウス(PTEC Ogt-KOマウス)を作製し、摂食時、48時間絶食時、高脂肪食負荷時での表現型を検討した。PTEC Ogt-KOマウスは、48時間絶食時に、各種溶質の尿中排泄の増加、近位尿細管細胞のアポトーシス亢進を認めた。さらに、近位尿細管細胞内への顕著な脂肪滴蓄積、腎皮質におけるATP含量の有意な減少が確認された。絶食モデルマウスの腎皮質サンプルを用いたプロテオーム解析の結果、Ogt-KOマウスでは、脂質代謝経路に大きな変動を認めることをパスウェイ解析で確認し、その原因として、脂肪酸エステル分解酵素の転写レベルでの発現低下が関与することを明らかにした。また、Ogt-KOマウスに高脂肪食負荷を行い、その表現型を観察した結果、高脂肪食負荷時、Ogt-KOマウスは近位尿細管細胞内に大量の脂肪滴蓄積を伴う細胞障害の悪化を認めた。本研究から、近位尿細管における蛋白O-GlcNAc修飾は、FXR-CES1 axisの安定化を介して、絶食時の脂肪酸代謝-ATP産生系を制御していること、その異常がインスリン抵抗性に伴う腎障害の進展に寄与していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
予定通りに研究が進んでいる。
①細胞特異的OGA欠損マウスを用いた腎O-GlcNAc修飾の生理的役割の解明を行う。共同研究者であるHanover JA博士(NIH)が作製したOGA-Floxマウスを用い、ポドサイト特異的、尿細管特異的Creマウスとの交配を行い、ポドサイト特異的、尿細管特異的OGA欠損マウス作製を行い、その表現系を解析する。これによりO-GlcNAc修飾のGain-of-functionが細胞機能や生命維持に及ぼす影響を検討することが可能となる。② OGT・OGAのGain-of-functionならびにLoss-of-functionがDKD進展に及ぼす影響を検討する。ポドサイトならびに近位尿細管特異的OGT欠損マウス、OGA欠損マウスを作製し、ストレプトゾトシン誘発1型糖尿病モデル、高脂肪食負荷肥満2型糖尿病モデルを惹起し、それぞれ、ポドサイト障害、近位尿細管障害の進展の程度を比較検討し、O-GlcNAc修飾のLoss-of-functionならびにGain-of-functionがDKD進展に及ぼす影響を検討する。
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J Am Soc Nephrol
巻: 30 ページ: 962-978
10.1681/ASN.2018090950.