(1)近位尿細管細胞におけるO-GlcNAc修飾の役割を検討するため、O-GlcNAc修飾を促進する酵素OGTを近位尿細管特異的に欠損するマウスを作製し、野生型マウスと比較した。摂食時、近位尿細管特異的OGT欠損マウスは有意な表現型を呈さなかったが、48時間絶食時には腎皮質ATP含量の低下を伴う、尿中アミノ酸、グルコース、各種イオン排泄の増加、アポトーシス亢進が確認された。絶食時のATP合成には、脂肪滴形成、脂肪酸分解、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が必要だが、近位尿細管特異的OGT欠損マウス腎では、脂肪滴の巨大化、脂肪酸分解酵素の発現減少、ミトコンドリアの断片化といった、脂肪酸分解-ATP合成の全過程に障害が確認された。近位尿細管特異的OGT欠損マウスから単離した培養尿細管細胞でもATP産生能の減弱が確認された。また近位尿細管特異的OGT欠損マウスは糖尿病状態で顕著な腎障害の悪化を呈した。 (2)O-GlcNAc修飾をはずす酵素OGAの糸球体上皮細胞特異的、また、近位尿細管特異的な欠損マウスは、通常の飼育状況、絶食状態、糖尿病状態いずれの状態でも、野生型マウスに比べ、有意な異常を認めることはなかった。 (3)糸球体上皮細胞特異的なOGT欠損が糸球体上皮細胞の正常発育を阻害するという過去の我々の報告と併せ、腎臓において、O-GlcNAc修飾欠損が顕著な表現系を示すことから、O-GlcNAc修飾は腎臓の正常機能維持に関わること、その障害は糖尿病性腎臓病の病態悪化にも寄与することが示された。一方で、過剰なO-GlcNAc修飾は特に大きな影響を示さないことも明らかとなった。
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