研究課題/領域番号 |
19K08734
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
和田 幸寛 昭和大学, 医学部, 講師 (10465172)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Interleukin-34 (IL-34) / Macrophage / TECs apoptosis / Renal fibrosis |
研究実績の概要 |
【背景】マクロファージ (Mq) の 増殖因子であるIL-34は別のMq増殖因子であるcolony stimulating factor-1 (CSF-1)と同様に障害尿細管上皮 (TECs)から分泌されるが、線維化への影響は不明であり、in vivoとin vitroでIL-34の腎線維化への影響を検証した。 【方法】10週齢雄C57BL/6 (B6) マウス (n=16) に片側尿細管結紮 (UUO)を施し (Day 0)、治療群と未治療群に振り分け、UUO未施行のB6マウスを対照群とした (n=4)。治療は抗マウスIL-34抗体(400 ng/kg)、未治療群は同量の生食をDay 0から連日腹腔内投与し、Day 10に屠殺した。更に培養マウス近位尿細管上皮細胞 (MRPTEpiC)での検討も施行した。 【結果】UUOマウスでは、抗体投与群で有意に1) 腎皮質内のIL-34とCSF-1、IL-34の受容体 (cFMSとPTP-ζ) のmRNA発現の低下とそれらの蛋白発現の低下 2) 腎のMasson染色での尿細管間質障害の軽減 3) 腎のsirius red陽性面積率の低下 4) 腎のF4/80+細胞数の減少 5) 腎皮質のMCP-1/CCL2、MIP-1/CCL3、TNF-α、IL-6、TGF-β、COL-1、COL-3のmRNA発現の低下 6) 腎のα-SMA蛋白発現の低下を認めた。TGF-β刺激後のMRPTEpiCでは、IL-34とその2つの受容体の蛋白発現が亢進し、刺激24時間後のERK1/2リン酸化と48時間後のα-SMA蛋白発現の亢進が抗IL-34抗体処置で有意に抑制された。 【結語】傷害TECsから分泌されたIL-34を中和抗体で阻害した結果、上皮間葉転換を制御し、Mq浸潤とTGF-βや炎症サイトカインなどの発現も抑制して、腎線維化を防止した可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IL-34と尿細管上皮細胞 (TECs) 障害との関連はシスプラチン腎症 (CP-N)モデルマウスを用いたin vivoの検討と培養尿細管上皮細胞 (MRPTEpiC)を用いたin vitroの検討を行い、IL-34がCP-Nにより誘導された炎症性シグナルやマクロファージ (Mq)の浸潤を抑制して、TECsのアポトーシスを制御する結果が得られた。これらの結果は仮説に合致しており、その内容は英文化して論文報告する事ができた (Wada Y et al. PLoS ONE 2021)。 また、IL-34が腎線維化に及ぼす影響についても、片側尿細管結紮モデル (UUO)マウスを用いたin vivoでの検討とMRPTEpiCを用いたin vitroの検討を実行し、障害TECsから分泌されたIL-34をその中和抗体投与で低下させると、UUOマウスで生じるMqの浸潤と炎症性サイトカイン発現の上昇が抑制され、腎線維化を軽減する現象が確認された。また、MRTEpiCをTGF-βで刺激することで生じた上皮間葉転換も抗IL-34中和抗体で抑制されており、当初の仮説に概ね合致した結果が得られている。 一方、IL-34がMqの極性・分化に及ぼす影響を明らかにする目的で、マウスMqのcell lineであるRAW264を用いて検討しているが、十分な結論が得られていない。RA264の培養にやや難渋し、培養MqをIL-34やCP, TGF-βなどで刺激して、その極性をPCRやwestern blotting等で評価しているが、決定的・確定的な結果が十分に得られておらず、今後はプロトコールの改良・改善等が必要と考えている。 全体的には本検討の2つの柱である1)IL-34とTECs障害(TECsアポトーシス)、2) IL-34と腎線維化との関係については概ね計画通り進捗しており、大きな支障はない。
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今後の研究の推進方策 |
IL-34の腎線維化への影響を更に解明するために、腎線維化進展に重要とされるfibroblastに着目する。通常、腎臓内のfirbroblastは様々な修飾因子や線維化促進因子によりα-SMA陽性のmyofibrobalastへ形質転換し、そのmyofibroblastがさらに線維化を促進するpromoterとなることが報告されている。このmyofibroblastの形質転換にマクロファージ (Mq)が影響することが知られており、IL-34が直接的にあるいはMqを介して間接的にmyofibroblastの形質転換に関与するか否かを検証する。 具体的には片側尿細管結紮 (UUO)モデルマウスにおいて、無治療群と抗IL-34抗体投与郡との間で、腎臓内のα-SMA陽性myofibroblastやCD71陽性fibroblastの陽性度を比較する。更に、MqがM2Mqに分布すると、TGF-βなどの線維化促進因子がより分泌され、myofibroblastへの形質転換が促進されるとされ、UUOマウスで無治療群と抗IL-34抗体投与郡間でM2Mqへの分化度をF4/80とCD206またはIL-10による2重免疫染色にて評価し、両群間の差異を評価する。 fibroblastのcell lineは購入可能で、C57BL/6マウスからfibroblastを抽出して培養することも可能である。よって、UUOによるin vivoでの検証に合致した細胞培養系を確立し、そのfibroblastをrecombinant IL-34等で刺激し、IL-34が直接的にfibroblastをmyofibroblastへ形質転換させるか否かを検討する。 現時点で、UUOモデルマウスの評価は終えており、cell lineの購入やマウスからの細胞抽出のプロトコールも確立できているため、検討遂行に大きな支障はないと考える。
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