Foxc1とFoxc2(Foxc1/2)は、腎発生以外にも様々な臓器の発生に必須の転写因子である。研究代表者は、後腎発生開始後(E13.5)にFoxc1/2を全身で欠損させるとネフロン前駆細胞(Nephron progenitor: NP)に異常をきたすことと貧血になることを見出した。Foxc1/2はNPのみならずその周囲の間質前駆細胞(Stromal progenitor: SP)にも発現するので、SPの異常が腎間質のエリスロポエチン産生細胞の分化を阻害し、貧血を引き起こすと考えられた。NP特異的なFoxc1/2の欠損ではNPの異常は観察されなかったので、SPの異常がNPの分化にも影響すると考えられた。Foxc1/2の制御下にある遺伝子を明らかにするために、先進ゲノム支援の援助を得て、単離したSix2陽性細胞とPdgfrb陽性細胞についてシングルセルRNA-seqを行った。Six2はNPのマーカーでありごく初期の未分化な尿細管にも発現が認められる。一方、Pdgfrbは腎間質細胞のマーカーである。その結果、NPとSPの分化経路の詳細が示唆されたとともに、NPではFgf20やFrem1、SPではFoxd1やSall1といったそれぞれの分化に必須の因子がFoxc1/2で制御されていることが明らかとなった。また、どちらにも異常な遺伝子発現を示す細胞群が認められた。面白いことにNPにおけるSall1の発現はFoxc1/2欠損の影響を受けておらず細胞による転写調節の違いが明らかになった。Pdgfrb陽性細胞の解析から、エリスロポエチン産生細胞の分化経路が明らかになることを期待したが、野生型ではエリスロポエチン陽性細胞は一つしか含まれておらず、Foxc1/2欠損では一つもなく解析に至らなかった。このことは、Foxc1/2がエリスロポエチン産生細胞の分化に必須であることを示唆した。
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