研究課題/領域番号 |
19K08736
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
谷田部 緑 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (30510325)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プロレニン受容体 / 妊娠高血圧症候群 / ピルビン酸脱水素酵素 / エネルギー代謝 / 胎盤 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、胎盤のエネルギー産生においてプロレニン受容体【(P)RR】が果たす役割を明らかにすることである。妊娠高血圧症候群は、母体の高齢化などに伴い大きな問題となっており、妊娠高血圧症候群の根本にある胎盤虚血とそれに伴う各種病態の解明が急務である。これまで、母体血中のs(P)RRは妊娠中の血圧上昇および胎児の出生体重維持に関連することから、(P)RRが母体には障害的に、胎児には保護的に働く可能性が示唆されていた。また、(P)RRは、網膜細胞においてピルビン酸脱酸素反応、好気的代謝の維持に働くことが示された。そこで、我々は、胎盤栄養膜細胞を用いて、妊娠高血圧症候群における胎盤虚血を模した低酸素刺激が、(P)RR、特に細胞内の可溶性プロレニン受容体【s(P)RR】を増加させ、(P)RRのピルビン酸脱水素酵素(PDH)βサブユニット(PDHB)への結合が増加することで、PDHBの分解を抑制して好気的エネルギー産生を促進することを示した(Journal of Molecular Endocrinology 64:3,145-154, 2020)。低酸素による細胞内s(P)RRの増加とそれに伴うPDHBの機能維持は、エネルギー産生維持などによる胎児発育の維持と酸化ストレス増加などによる母体高血圧に関与している可能性がある。しかし、これまでのデータは主に培養細胞を用いた実験系から得られており、胎盤虚血と(P)RR、妊娠高血圧症候群の関係について、現在はin vivoも含めた解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度においては、胎盤栄養膜細胞での低酸素刺激が、特に細胞内の可溶性プロレニン受容体【s(P)RR】を増加させ、(P)RRのピルビン酸脱水素酵素(PDH)βサブユニット(PDHB)への結合が増加することで、PDHBの分解を抑制して好気的エネルギー産生を促進することを示し、論文掲載に至った(Journal of Molecular Endocrinology 64:3,145-154, 2020)。査読コメントへの対応や追加実験が必要となったが、その過程において、低酸素でのs(P)RRの増加は細胞内の反応であり培養液中のs(P)RR増加はみられないなど、新規知見も明らかとなった。その間、培養細胞での知見が生体内や組織レベルでも得られるか、ラット、トランスジェニックマウスおよびヒト胎盤を用いた実験を開始している。特に、子宮への灌流血管をクリッピングするReduced Uterine Perfusion Pressure (RUPP)法を用いたラットの実験においては、胎盤虚血での胎盤組織内s(P)RR増加を示唆する所見が得られており、実験を継続中である。進捗はおおむね計画通りと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究を効率的に推進するために、培養細胞を用いた実験の他、ラット、マウス、ヒト胎盤組織を用いた実験を組み合わせて行っている。現在、Reduced Uterine Perfusion Pressure (RUPP)法を用いたラットの実験においては、適切な虚血の度合いを得られる手法の調整や血圧測定法の確立、ヒト胎盤では正常分娩および妊娠高血圧症候群を伴った分娩で得られた胎盤での(P)RRやPDHBの発現解析を行っている。2020年度には研究室や動物実験施設の移転があり、一時的に実験を行いづらい状況が生じるが、マウスの繁殖を待つ間に保存されたヒト胎盤を使用して実験を行うなど、それぞれの状況下で柔軟に研究をすすめられるよう計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度には、他の予算と共通して使用できる実験系が多くあったため、次年度使用が生じた。2020年度には、実験室の移転に伴って、消耗品の買い替えなどの追加費用が生じることが見込まれる。次年度の予算は、主に実験試薬など消耗品の購入費として使用する見込みである。その他、一部の予算については、研究成果を学会発表する際の旅費として使用することを予定している。
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