研究課題/領域番号 |
19K08744
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
猪爪 隆史 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (80334853)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抗PD-1抗体 / メラノーマ / 腫瘍浸潤リンパ球 / 腫瘍特異的CTL / CD155 / tumor digest / TIL |
研究実績の概要 |
抗PD-1抗体治療の効果に関するバイオマーカーの中でも、効果の中心を担う重要な腫瘍特異的T細胞の制御に直接関わる分子を探索し、その分子の機能を解析し、治療標的としての有用性までを検証する計画である。抗PD-1抗体治療前、治療後のメラノーマ組織ペア、あるいは再発症例の再発病変組織を用いて解析する。それぞれの組織よりtumor digest、がん細胞株、腫瘍浸潤T細胞株を作成する。がん細胞株と腫瘍浸潤T細胞株を共培養することで、腫瘍浸潤T細胞の中の腫瘍特異的T細胞を同定し、それをクローニングすることで、腫瘍特異的T細胞のT細胞受容体(TCR)遺伝子型を同定する。このTCR遺伝子型が注目すべき重要な腫瘍特異的T細胞の目印となる。最初に保存したTumor digestに戻り、腫瘍浸潤T細胞を抽出した上でsingle cell RNA sequence解析を行い、フェノタイプによってT細胞を細かくグループ化する。そして、前もって同定しておいた腫瘍特異的なTCR遺伝子型をもつT細胞の所属するグループに着目することで、腫瘍特異的T細胞に選択的に発現され、その制御に直接関わる分子を同定、解析する。着目した候補分子については腫瘍細胞に過剰発現させたりCRISPR-Cas9によりノックアウトしたりして実際の腫瘍特異的T細胞によるがん細胞認識への影響を定量評価する。また、抗PD-1抗体治療前後のがん組織における発現を免疫染色で実際に評価したり、抗PD-1抗体を用いたメラノーマ治療動物モデルを用いて候補分子の機能や影響を評価したりしつつ、抗腫瘍T細胞反応を増強するための新規治療開発につなげることも目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗PD-1抗体治療の効果に直接関わる重要因子を患者検体の中の腫瘍特異的T細胞と腫瘍細胞の相互作用にフォーカスして、網羅的に解析する計画である。現在までに、抗PD-1抗体治療前、治療後のメラノーマ組織1ペアからそれぞれtumor digest、がん細胞株樹立、および腫瘍浸潤T細胞のセットを作成完了、治療後のメラノーマ組織4例からtumor digest、がん細胞株樹立、および腫瘍浸潤T細胞のセットを作成完了した。そして、がん細胞の網羅的なプロファイリング(エクソームシーケンスによるtumor mutation burdenや主なdriver mutationの検出、免疫関連分子の発現解析)、tumor digest中のT細胞のsingle cell RNA sequenceとその結果によるグループ化 、がん特異的T細胞のクローニングとそれらのT細胞受容体遺伝子型の同定)が終了した。その結果、多様な腫瘍浸潤T細胞グループの中で腫瘍特異的T細胞が所属するグループが特異的に発現するバイオマーカー候補分子を多数同定できた。さらにがん細胞側に発現される抗PD-1抗体治療抵抗性に関わる分子群も同定した。その一つCD155について、メラノーマ細胞株と特異的T細胞の反応を強く阻害することをブロッキングやCRISPR-Cas9 KO実験で確認した。さらに抗PD-1抗体治療に抵抗して再発した腫瘍組織ではCD155発現レベルが治療前と比較して有意に上昇していることを免疫染色によって証明した。そしてCD155とT細胞上の抑制性受容体TIGITの結合を阻害する抗体による抗腫瘍T細胞反応の増強効果を、ヒト検体を用いたin vitro実験とin vivoマウスモデルにて証明した。他の分子群についてもそれぞれのバイオマーカーとしての有用性や抗腫瘍T細胞反応における機能を検証中である。
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今後の研究の推進方策 |
前述のこれまでに同定した腫瘍特異的T細胞が特異的に発現するバイオマーカー候補分子群、がん細胞に発現される抗PD-1抗体治療抵抗性に関わる分子群 (CD155以外)について、腫瘍細胞に過剰発現させたりCRISPR-Cas9によりノックアウトしたりして、腫瘍特異的T細胞によるがん細胞認識への影響を定量評価する。また、抗PD-1抗体治療前後のがん組織における発現を免疫染色で実際に評価したり、抗PD-1抗体を用いたメラノーマ治療動物モデルを用いて候補分子の機能や影響を評価したりしつつ、抗腫瘍T細胞反応を増強するための新規治療法開発に向けた検証を行う。この実験系は研究代表者がすでに確立し多くの業績を上げているシステムであり、これまで同様に問題なく推進できる。また、当施設だけでは実施困難なバイオインフォマティクス解析やCRISPR-Cas9を用いた実験システムについては、共同研究者の千葉県がんセンター研究所、冨樫庸介部長、京都大学大学院医学研究科免疫ゲノム医学講座の谷口智憲講師と連携しながら推進する予定である。
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