研究課題
本年度は「ガンマ線照線照射後骨髄移植によるエフェクターT細胞増殖」の系を観察予定であったが、マウス舎の移転によりガンマ線が使用不可となったため、もともとT細胞を欠損するRag2KOマウスをレシピエントとして用いた。Rag2KOマウスにOT1マウス由来のCD8陽性T細胞(OT1細胞)を移入し、血中、皮内での総数の経時的変化を追った。移入時のOT1細胞は8割がnaiveT細胞で、effectorT細胞は1割以下であったが、移入後4日目には血中の数は約10倍となり、central memory T細胞の表現型を持つものが約半数を占めた。移入後10日目には、血中のOT1-T細胞の約半数がcentral memory T細胞、4割がeffectorT細胞、1割弱がnaiveT細胞となった。血中T細胞サブセットの比率はこの状態で長期間安定することが観察された。ここで観察した現象は、T細胞のいない状態(放射線照射後や今回のように遺伝的にT細胞を欠損する状態)にT細胞を移入すると抗原非特異的に爆発的に増殖する現象(Homeostatic expansion)を観察したものである。今回の我々の検討で示されたように、homeostatic expansion後は血液中のT細胞の約半数がeffecorT細胞になるという特異な状況が生じる。これは昨年度確立したペプチド抗原静注によるエフェクターT細胞増殖法と同じような状況が抗原非特異的に誘導された系ということになる。ペプチド抗原静注法と同様にRag2KOマウス移入の系でも、炎症のない皮膚へのT細胞の浸潤が生じているかを移入後30日で観察したところ、皮内に多数のT細胞クラスターをみとめ、活発に動きまわっている像が得られた。この結果は、effectorT細胞であれば炎症のない皮膚に浸潤する能力を有しているという我々の仮説を支持するものである。
3: やや遅れている
本年度はCOVID19拡大の影響で約3ヶ月にわたって動物実験が禁止され、維持マウスも数を縮小するよう求められるなどの事態があったため、マウス実験が必須である本研究は一時期中断を余儀なくされた。秋以降はおよそ例年通りの実験体制に復帰している。皮膚のT細胞Homeostaticサーベイランスの分子メカニズムに迫るための研究開始が、R3年度にずれ込んでいるが、当初R3年度に予定していた「Homeostaticサーベイランスの生理学的意義の解明」と並行して行う予定である。
①Homeostaticサーベイランスを制御する分子メカニズムの解明Homeostaticサーベイランスの際の組織浸潤も、炎症時と同様に接着因子とケモカインによって制御されていると予想される。以下の検討を行う。(i) 百日咳毒素―全て百日咳毒素はGiの特異的な阻害薬であり、細胞遊走にケモカインがどの程度関与するのかを評価する。(ii) ケモカイン特異的な阻害―百日咳毒素を用いた検討でケモカインの重要性が示唆された場合、どの種類のケモカインが重要かの絞り込みを行う。(iii) 接着因子依存性の検討―炎症時のT細胞皮膚浸潤に重要であることが知られるICAM、VCAM、およびCLAについてその関与を検証する。②Homeostaticサーベイランスの生理学的意義の解明非炎症下の皮膚に浸潤したT細胞がどのような運命をたどるか、またどのような免疫機能、あるいは病態に関与するかについて、以下の「問い」を検証する:(i)皮膚浸潤後の運命:再度循環系へ戻りうるか―Kaedeマウスを用いて、Homeostaticサーベイランスで皮膚に浸潤したT細胞がリンパ節に回帰しうるかを検証する。また、その回帰がCCR7依存性かどうか検証する。(ii)皮膚浸潤後の運命:TRMへ移行するか―非炎症部皮膚に浸潤したT細胞がそのまま皮膚に留まりTRMに移行する可能性について検証する。長期間のタイムコース、また組織内分布について検討する。(iii)細菌防御に影響するか―Homeostaticサーベイランスが細菌感染防御に果たす役割を検証する。
COVID19の影響により、動物実験が約3ヶ月停止していたため。またマウス実験自体の縮小を余儀なくされたため。現在実験体制はおおよそ通常通りに復帰しており、R3年度に計画していた研究と並行して進める。
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