研究課題/領域番号 |
19K08748
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
江川 形平 京都大学, 医学研究科, 講師 (50511812)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | T細胞 / 抗原提示 / 皮膚免疫 |
研究実績の概要 |
本年度は「Involucrin-mOVAマウスにおけるT細胞皮膚浸潤」についての検討を行った。本マウスは表皮に特異的に発現するInvolucrinのプロモーター制御下に卵白アルブミン(OVA)を発現するマウスである。本マウスにOVA特異的T細胞受容体をもつOT1マウスを移入すると皮膚に対する自己免疫応答が自然発症する。本モデルも皮膚に炎症が「自然発症」することから、皮膚におけるT細胞サーベイランスが関与する実験系である。本実験モデルにおいてCD11cYFPマウスと交配することにより皮膚樹状細胞を可視化したとこと、炎症の初期において皮膚樹状細胞が血管周囲にトラム状に集積する像が観察された。この結果は、T細胞のHomeostaticサーベイランスの初期において、血管周囲におけるT細胞への抗原提示が生じていることを示唆している。このような現象は、低分子化合物(ハプテン)を光源として用いる接触過敏反応では認められず、タンパク抗原に対する特異的な免疫応答である可能性がある。本実験結果から、「抗原特異的T細胞を皮膚にメカニズムが存在するのではないか」との仮説に至り、2022年度科研費応募の研究課題へと発展している。また、接触過敏反応の実験系において、感作部位に抗原特異的T細胞が遅れて浸潤することを見出した。通常、マウスの腹部でハプテン感作5日後に耳介にハプテンを塗布することで免疫応答を誘導する系であるが、感作部位において、感作後6日をピークとしてT細胞の浸潤が生じ、皮膚炎を誘導することが明らかとなった。ここではIFN-gの発現を中心とする通常の接触過敏反応と同様の免疫反応が生じ、T細胞が抗原の排除に寄与していることを明らかにした。本研究結果は第46回日本研究皮膚科学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度に行う予定であったHomeostaticサーベイランスを制御する分子メカニズム、意義の解明を2022年度に延期した。これはマウスの準備が予想通り進まなかったこと、実験を進める中で興味深い2つの現象(タンパク抗原に対する樹状細胞の血管周囲配列、接触過敏反応感作部における遅延性の炎症)を見出しその解析を進めていたことによる。現在、ケモカインの阻害薬を用いたT細胞の非炎症部位への浸潤阻害実験を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に予定していた以下の実験を進める。 ①Homeostaticサーベイランスを制御する分子メカニズムの解明 Homeostaticサーベイランスの際の組織浸潤も、炎症時と同様に接着因子とケモカインによって制御されていると予想される。以下の検討を行う。(i) 百日咳 毒素―全て百日咳毒素はGiの特異的な阻害薬であり、細胞遊走にケモカインがどの程度関与するのかを評価する。(ii) ケモカイン特異的な阻害―百日咳毒素を 用いた検討でケモカインの重要性が示唆された場合、どの種類のケモカインが重要かの絞り込みを行う。(iii) 接着因子依存性の検討―炎症時のT細胞皮膚浸潤 に重要であることが知られるICAM、VCAM、およびCLAについてその関与を検証する。 ②Homeostaticサーベイランスの生理学的意義の解明 非炎症下の皮膚に浸潤したT細胞がどのような運命をたどるか、またどのような免疫機能、あるいは病態に関与するかについて、以下の「問い」を検証する:(i) 皮膚浸潤後の運命:再度循環系へ戻りうるか―Kaedeマウスを用いて、Homeostaticサーベイランスで皮膚に浸潤したT細胞がリンパ節に回帰しうるかを検証す る。また、その回帰がCCR7依存性かどうか検証する。(ii)皮膚浸潤後の運命:TRMへ移行するか―非炎症部皮膚に浸潤したT細胞がそのまま皮膚に留まりTRMに 移行する可能性について検証する。長期間のタイムコース、また組織内分布について検討する。(iii)細菌防御に影響するか―Homeostaticサーベイランスが細菌 感染防御に果たす役割を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19パンデミックの影響で2020年に実験の停止および維持マウス系統の縮小があり、動物実験の進行に支障が生じたため、実験計画の遅れが生じている。
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