研究課題
2002年以降に杏林大学皮膚科を受診し薬剤性過敏症症候群(DiHS/DRESS)と診断した症例のうち、3年以上の経過観察をしえた55症例を対象とし、自己免疫疾患発症のrisk factorを検討した。検査データは急性期(~day 10)、亜急性期 (day 11~36)、回復期 (day 37~)に分類し、今回は急性期と亜急性期を解析した。症例は自己抗体陰性群 (autoimmune-free : AF)、自己抗体初回陽性群 (initially autoimmune-positive: IAP)、自己抗体陽性群 (autoimmune-positive: AP)に分類し、AP群には自己抗体陽性のみの群 (Ap)と自己免疫疾患発症群 (autoimmune disease : Ad)を含めた。得られた結果は、1、自己免疫疾患は9例 (16.3%)で、DiHS/DRESSから3~4年での発症例が多かった。2、年齢、性別などの基本情報は自己免疫疾患発症との関与はなかった。3、AP群ではIVIg治療例が半数以上を占め、IVIg投与はDiHS/DRESSの自己免疫疾患発症のrisk factorと考えられた。4、臨床検査データでは、急性期のリンパ球数、NLR (neutrophil-to-lymphocyte ratio)は自己免疫発症のrisk factorの可能性が示唆された。また、AP群では急性期のALTは高くGlb値は低い傾向だが、統計学的に有意ではなかった。5、急性期~亜急性期のALTの上昇およびGlb値の増加はAP群の特徴的な所見であった。6、現在検討中だが、AP群はAF群よりもヘルペス属ウィルスの3M以上の持続活性化が見られる傾向が確認されている。これらの項目による自己免疫疾患発症を予測するスコアの作成を開始し、検討中である。
2: おおむね順調に進展している
初年度である今年度は対象疾患の抽出を行い、患者基本情報、臨床検査データを中心とした自己免疫疾患発症のrisk factorの解析を主に施行した。これにより、研究概要に記載した各項目がDiHS/DRESS経過中の自己免疫疾患発症の予測を可能にするrisk factorであることを明らかにできた。さらに、これらの項目を用いた自己免疫疾患の発症を予測する臨床スコア作成に取り掛かっており、次年度中の完成を目指している。また、DiHS/DRESS発症から3-4年の経過で自己免疫疾患が発症しやすいことから、DiHS/DRESSでは治癒後、少なくとも4年間は経過を観察する必要があることが明らかになった。自己免疫疾患発症予測スコアが完成すれば、発症リスクの高い症例に絞った密な経過観察を行うことが出来、臨床的価値の高い結果が得られると考えている。上記の検討と同時に、次年度に向けて自己免疫疾患発症を予測しうるバイオマーカーの検討に着手し、解析を進めている。現在、一部検体を用いたスクリーニング的な検討を終了している。また、DiHS/DRESSが自己免疫疾患発症のモデルとして最適である理由の一つとして、様々なヘルペスウィルス再活性化と自己免疫疾患発症の関係を時間軸で検討できることにある。現在、唾液、全血での各ヘルペスウィルスの再活性化についての検討も開始し、ウィルス再活性化と自己免疫疾患発症の関係を明らかにする。以上の理由から、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
初年度の結果を元に、1. 自己免疫疾患発症予測臨床スコアの確定、2. 予測バイオマーカーの解析、3. 自己免疫疾患発症とウィルス再活性化の関係の3点に集中して次年度はすすめていく。並行して次への足がかりとなるregulatory T細胞やmonocyteなどのin vitroでの予備解析や、自己免疫疾患を発症しうる他の疾患(GVHDや免疫チェックポイント阻害薬使用症例)への応用を探る。具体的には、1.現段階で確定しているrisk factorによる自己免疫疾患発症予測スコアでは、感度、特異度とも臨床使用に耐えうるとは言えない。そこで、スコアポイントの変動や追加項目の設定など、詳細な検討を行うと同時に、新規症例を用いた検証を行う。2.予備検討において、monocyte系のみでなくT細胞系からのサイトカイン/ケモカインの推移が自己免疫疾患発症には重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。さらに症例を追加し予測バイオマーカー を決定する。決定後、予測スコアにも使用可能かなどの検討も行う。3.唾液および全血を用いた予備検討において、数種類のヘルペスウィルスの持続再活性化が自己免疫疾患発症に関与している可能性が示唆されており、ウィルスの種類の追加および症例数の追加を行い、ウィルスの再活性化が自己免疫疾患発症にどのように関与するのか(いつ、どのくらいの期間の再活性化が必要か、自己免疫疾患の種類による差はあるのか)を明らかにする。以上を中心に次年度は検討を行う予定にしている。
今年度は臨床情報を元にした解析を中心に行い対象検体の詳細を精査したこと、バイオマーカーの解析やin vitroの検討を行う準備段階の予備検討が主体であったことが理由として挙げられる。次年度は予備検討の結果をふまえ、バイオマーカーの測定を一括して数回行う予定としており、より精度の高い結果が収集できると考えている。また、これと並行してin vitroの実験を当初予定した通りに進めることで、ほぼ予定通りに研究費を使用し研究を進めることができると考えている。
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