ヒトの場合、単純ヘルペスウイルス(HSV)感染により皮膚の表皮内に小水疱を形成する。この小水疱を形成するときに重要な役割を果たしていると想定されるのが表皮細胞間接着構造の一つであるデスモグレイン3(Dsg3)であるが、この役割については全く不明であった。 マウスを用いたHSV感染の動物モデルの解析に取り組み、HSV-1を経皮感染させて、皮疹の誘導と発汗低下をきたすモデルを確立した。本モデルは、HSV-1感染により疱疹状皮疹を誘導し、足底に存在するエクリン汗腺の発汗障害、皮膚の乾燥を惹起するものであり、足底の重層扁平上皮ではヒトと同じ小水疱の形成も確認された。 Dsg3の発現を欠損させたDsg3ノックアウト(KO)マウスを用いた同様のシステムによる解析を行ったところ、HSV-1感染により、脊髄後根神経節における潜伏感染の誘導、エクリン汗腺の発汗障害は、野生型(WT)マウスと同程度の結果が得られた。一方、疱疹状皮疹の程度はWTマウスより軽度であり、さらに血清抗HSV-1 IgG抗体はWTマウスより強く誘導された。In vitroによる解析では、Dsg3 KOマウス由来ケラチノサイトは、WTマウス由来ケラチノサイトに比べ、HSV-1の表皮細胞間感染拡大が阻害され、ウイルス複製能も低下した。WTマウス由来ケラチノサイトに抗Dsg3抗体を反応させた状態で、HSV-1感染を行った条件では、Dsg3 KOマウス由来ケラチノサイトにHSV-1感染を行った場合と同様の結果が得られた。 以上より、Dsg3はHSV-1の表皮細胞間の感染拡大に関与する。また、自己免疫疾患の一種である尋常性天疱瘡を代表とする疾患の原因抗体である抗Dsg3抗体は、HSV-1の感染拡大を阻害する役割を果たしており、HSV感染症の重症化を抑制する。
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