研究課題
成体毛包の再生能を生涯にわたって支える毛包上皮幹細胞が、胎仔期に正しい場所、正しいタイミングで誘導される機構については、いまだ十分に理解されていない。そこで本研究では、毛包幹細胞へのlineage primingのメカニズムを理解し、これに寄与する制御因子の同定を目指す。私たちはこれまでに、1細胞解像度のライブイメージングと1細胞トランスクリプトーム解析を組み合わせたマルチオミクス解析から、毛包幹細胞の起源を同定し、さらに毛包を構成する各種細胞のコンパートメント形成と幹細胞誘導を同時に可能とする新しい器官発生モデルとして「テレスコープモデル」を提唱した。そして毛包幹細胞の前駆的な細胞は、発生過程においてWnt low/Bmp highの領域から生まれ育まれることを見出した。本年度はこれまでの研究成果を学術論文としてまとめて、Nature誌発表した。さらに、毛包幹細胞の誘導と成熟の過程を支える周囲環境との相互作用を1細胞レベルで理解するために、間充織細胞の追跡を進めている。これまでのところ、上皮幹細胞領域の発展とともに隣接する間充織にも、毛包上皮細胞に密接して相互作用する領域が生まれることを見出している。また、これまでに入手していたBmpやWntシグナルパスウェイのコンディナルノックアウトマウスの交配が完了し、ライブイメージングの取得と動態解析の準備が整いつつある。さらに上皮細胞に対応する間充織細胞の遺伝子発現変動を理解するため、1細胞RNA-seqデータの取得も進めており、次年度上半期には取得完了の見込みである。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、1細胞トランスクリプトーム解析から、幹細胞の誘導に寄与すると期待されるシグナルパスウェイを見出し、さらに解析ツールの準備を進めてきた。本年度はさらに、上皮前駆細胞と相互作用して幹細胞誘導と恒常的な維持に寄与する周囲環境(外的要因)を明らかにするため、毛包上皮細胞に隣接した毛包間充織細胞の動態解析を進めた。概ね当初の研究計画通りに進捗していると考えられる。
次年度上半期で、発生期間充織細胞の1細胞RNA-seqデータの取得が完了する予定であるため、上皮間充織相互作用の時空間変化を解析する予定である。さらに幹細胞予定細胞と挙動をともにする周囲細胞の動態や遺伝子発現状態を、野生型のみならず、BmpやWntのコンディナルノックアウトマウス由来の毛包の1細胞オミクス解析より明らかにする。幹細胞の誘導過程で動くシグナルネットワークを、siRNAによるノックダウン、薬理学的阻害剤や活性化剤の添加、レーザーアブレーションによるシグナルソースとなる細胞の除去等を行うことで摂動し、毛包上皮幹細胞の誘導に強く寄与する分子を同定することを目指す。
補助事業の目的をより精緻に達成するために、さらなる解析を進める予定である。次年度実施予定の実験の消耗品費及び動物購入・維持費に使用する予定である。
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Nature
巻: 594 ページ: 547~552
10.1038/s41586-021-03638-5
Nature Communications
巻: 12 ページ: 2577
10.1038/s41467-021-22881-y