研究課題
栄養障害型表皮水疱症(DEB)は、表皮真皮間接合を担う基底膜関連分子の一つであるVII型コラーゲン(COL7)遺伝子に変異を生じ発症する。DEB患者は、外的刺激に伴い容易に水疱を形成し、食道狭窄など重症な合併症が多く、なかでも有棘細胞癌(SCC)は発症頻度が高く致死的となることも稀でない。本研究の目的は、DEB患者におけるSCCの発症と遠隔転移機序を解明することである。方法として、COL7遺伝子をノックアウトした培養表皮細胞(DEB患者の表皮細胞のモデル)を作製し、19,500種類の遺伝子を1細胞につき1遺伝子ずつランダムにゲノム編集し、癌化し浸潤・転移を来した細胞から標的となった遺伝子を同定する。その際、ホストとなる細胞をEGFP標識しておくことで浸潤転移細胞を容易に同定することが可能となる。2020年度は、2019年度に作成したCas9とEGFPを安定発現する不死化表皮細胞(HaCaT細胞)株へ、GeCKO CRISPR Knock-Out pooled library(addgene)から作成したレンチウイルスを1細胞あたり1遺伝子となる様に感染させ、マトリゲルコーティングした8μm孔のチャンバー上で培養した。網羅的に遺伝子がノックアウトされ浸潤能を獲得して孔を通過する前後の細胞からそれぞれDNAを抽出し、次世代シークエンサー(Miseq)で標的となった遺伝子をアンプリコンシーケンスしMAGeCKソフトウエアで解析したところ、マトリゲルを通過した野生型細胞ではPICALM遺伝子ノックアウト細胞が優位に増加していた。
1: 当初の計画以上に進展している
網羅的に遺伝子を同定するライブラリースクリーニングの可否が本研究の一番重要なボトルネックであるが、2020年度には次世代シークエンスからソフトウエア解析まで一連の実験まで進んだ。今後予定している、網羅的に遺伝子をノックアウトした細胞を免疫不全マウスへ投与し転移巣から遺伝子を解析するin vivoの実験もスムーズに進行すると予想されるため。
2021年度には、作製した細胞をヌードマウス皮下へ移植し、移植4週後に移植部と肺、肝臓転移巣から細胞を回収する。コラゲナーゼ処理後、FACSでGFP陽性細胞を採取しDNAを抽出する。そして、In vitroでのスクリーニング実験と同様に次世代シークエンサーとMAGeCKソフトウエアを用い、COL7発現特異的に得られた遺伝子の同定を目指す。そして、同定した遺伝子が実際にCOL7依存性に浸潤転移能を規定するか確認するために、同定遺伝子を標的とするgRNAをCOL7+およびCOL7-ホスト細胞へトランスフェクションし、候補遺伝子ノックアウト細胞を作製する。これらの細胞を上記4と同様に免疫不全マウス皮下へ投与し、COL7依存性に浸潤転移能を持つ様に変化するか確認する。
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