研究課題/領域番号 |
19K08776
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
寺林 健 大分大学, 医学部, 助教 (40452429)
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研究分担者 |
橋本 悟 大分大学, 理工学部, 客員研究員 (60352150)
石崎 敏理 大分大学, 医学部, 教授 (70293876)
花田 克浩 大分大学, 医学部, 助教 (90581009)
赤嶺 孝祐 大分大学, 医学部, 助教 (60799435)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アトピー / ケラチノサイト / ROCK / TSLP |
研究実績の概要 |
アトピー性皮膚炎では、ケラチノサイト由来のサイトカインTSLPの過剰発現が疾患の発症・悪化要因の1つとなっている。本研究課題では、ROCKによるTSLP発現制御機構を明らかにし、ROCK経路を標的とした抗炎症・抗アレルギー薬とは異なる新規アトピー性皮膚炎治療薬の開発基盤を構築することを目的としている。今年度においては、以下の結果が得られている。 1.ROCKノックアウトケラチノサイトにおける遺伝子発現解析 RNA-seqによる遺伝子発現解析を行い、ROCKノックアウトにより炎症に関与する遺伝子群の発現が変動することが明らかとなった。この遺伝子群の中にTSLPも含まれておりNF-kB経路による発現制御が示唆されたが、同経路を阻害する複数の阻害薬で処理してもTSLPの発現は抑制されなかったことから、ROCKは既知の経路とは異なる方法でTSLPの発現を制御すると考えれられた。また、ROCKノックアウトケラチノサイトではケラチノサイト分化に関与する遺伝子群の発現が大きく変動することも明らかになった。 2.ケラチノサイト分化におけるROCKの機能解析 前年度にROCKノックアウトによりケラチノサイトの分化促進が観察されていた。今年度においては、ノックアウトケラチノサイトでは紡錘体の形成軸異常と細胞質分配異常が生じ、多核化また倍数体化する細胞集団が生じることを見出しており、このことが、ケラチノサイトのゲノム不安定性を誘導し分化異常を引き起こす要因となっていると考えられた。実際にノックアウトマウスの皮膚においても、表皮角化細胞の重層化が確認され、皮膚バリア機能の低下がみられる。これらのことは基底細胞からのTSLPの分泌につながることから、TSLP発現・分泌制御におけるROCKの重要性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではROCKがキナーゼ活性非依存的にTSLPの発現を制御する分子機構の解明とこの機構を標的とした治療薬開発基盤を構築することを目的としている。今年度までの解析によりROCKは新規経路によりTSLPの発現制御を行っていることが示唆されているものの、TSLPの発現制御に関わる因子の同定に至っていないことから進捗が遅れている。これまではROCKの免疫沈降物に対して質量分析を行うことでTSLP制御因子の同定を試みてきたが、ROCKノックアウトによってゲノム不安定性が生じることから、次年度はROCKが間接的にTSLPの制御を行っている可能性も視野に入れる必要があると考えている。ノックアウトマウスの表現型解析と合わせ、次年度の事業を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実施された研究の結果から、ROCKはケラチノサイトの染色体分配機構に重要な役割を果たしていることが示唆された。ROCKの喪失はゲノム不安定性を誘発し、ケラチノサイトの分化を促進する。染色体分配異常はROCK阻害薬では観察されないことから、ROCKはそのキナーゼ活性依存的に機能を果たしていることが示唆される。また、別途実施したRNA-seqの結果からはカルシウム添加による分化誘導によりROCKの発現が有意に低下することも見出している。これらのことから、ROCKのキナーゼ活性非依存的な機能はケラチノサイトの分化を抑制していると考えられる。また、ケラチノサイトの中でも幹細胞マーカーの発現の強い集団に ROCKも強く発現しており、ROCKが皮膚幹細胞の維持にも寄与している可能性も示唆された。 ROCKはそのキナーゼ活性を介してアクチン細胞骨格の再構成を制御することで分化誘導したケラチノサイトの上皮細胞極性の成立に関与する一方で、キナーゼ活性非依存的にはケラチノサイトの正常な分化を制御している。また未分化のケラチノサイトにおいては、ROCKは炎症性サイトカインの発現をキナーゼ活性非依存的に制御している。これらのことは、ROCKは皮膚組織の恒常性維持に重要な役割を果たしていることを示唆しており、アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患治療戦略を構築する上で有望なターゲットとなり得るものになると考えられる。培養ケラチノサイトで観察された結果はアトピー性皮膚炎様症状を呈するROCKノックアウトマウスの表現型を十分に説明し得るものであり、次年度以降の研究においては、ROCKによる染色体分配機構ならびにケラチノサイトのステムネス維持の分子機序を明らかにすることで、皮膚疾患治療戦略構築の基盤を構築していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症により参加予定学会がweb発表になったことや、研究打ち合わせの回数を減らしたため旅費に繰越金が生じた。次年度においては必要最小限の打ち合わせを行い、余剰額については研究遂行に必要な培養器具器具などの消耗品に充てる予定である。
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