肉芽腫形成のメカニズムには不明な点が多く,特異的治療法も確立していない。我々はNOD2遺伝子の機能獲得型変異により自己炎症的機序から皮膚・関節・眼に肉芽腫を形成する単一遺伝子病であるブラウ症候群(指定難病110)を肉芽腫形成のモデルとして検討してきた。その中で患者由来iPS細胞を樹立して解析すると,IFNγ添加によって変異の有無によらずNOD2の発現が増強するが,炎症性サイトカインの放出は変異NOD2を発現する細胞においてのみ見られることが観察された。その一方で,NOD2のリガンドであるMDPによる活性化が,変異NOD2を発現する細胞ではむしろ抑制するという奇異な現象も観察され,この結果ブラウ症候群では炎症が持続することで肉芽腫形成が誘導されるのではと考えた。この MDP添加時の低反応性の機序を明らかにする目的で,本研究ではリン酸化タンパクの網羅解析に取り組み,現在解析を進めている分子Aの免疫調整機構を同定することができた。実際に変異NOD2の機能解析として頻用している系に,分子Aを共発現させると,NOD2によるNF-κBの転写亢進能が抑制されることが観察された。この分子Aはタンパクの翻訳後修飾に関わる分子であり,NOD2の活性化に伴って代償的に分子Aが誘導されることで,機能獲得型変異であるNOD2を発現する細胞において,むしろ免疫応答が低下するという表現系を呈している可能性がある。現在,ブラウ症候群による肉芽腫形成機序として,この分子Aの同定を端緒とした翻訳後修飾の影響について引き続き研究を継続している。
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