研究課題/領域番号 |
19K08787
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉崎 歩 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (40530415)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | B細胞 / 強皮症 / 自己免疫 / 超微量タンパク分析 / マイクロフルイディクス |
研究実績の概要 |
もともとB細胞は抗体を産生する役割のみを持つとされてきたが、近年の免疫学の発展により、B細胞の多様な役割が明らかとされてきている。その中でも特に重要な役割として、B細胞は抗原提示や、抗原刺激に応じたサイトカイン産生を介して、免疫系において中心的な役割を果たすことが示唆されている。このようなB細胞の機能は、自己免疫疾患においても重要であり、B細胞受容体を介した自己抗原刺激は、自己反応性B細胞の活性化とサイトカイン産生を誘導し、これらは病態の形成と進展に大きく関与すると考えられる。しかし、自己反応性B細胞の自己抗原に対する反応性やサイトカイン産生、他細胞との相互作用などの機能に関する直接的な検討は、自己反応性B細胞が生体内に僅かしか存在しないため、技術的に困難を生じており、これまでにほとんど行われていない。本研究の目的は、独自の技術を用いてマイクロ空間上に作成された分析デバイスを用いて、全身性強皮症(SSc)における自己反応性B細胞の機能を明らかとすることにある。これにより、広く自己免疫疾患における自己反応性B細胞の機能の理解を深め、新たな治療ターゲットを同定し、治療法開発へとつなげることを目指す。 本研究では新しい測定法を用い、SSc患者より得られた自己反応性B細胞の機能解析を行っている。具体的にはマイクロチップ上に作成されたマイクロ空間を用い、topo I抗原特異的B細胞と血管内皮細胞、線維芽細胞、T細胞をはじめとする免疫細胞の互いに及ぼす影響を検討し、自己反応性B細胞の機能解析を施行中である。これにより、自己反応性B細胞が血管内皮細胞や線維芽細胞およびT細胞などの免疫担当細胞と相互作用した際のサイトカイン産生能を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、当初の計画以上に進展している。 本研究では、抗トポイソメラーゼI抗体SSc患者から得られたトポイソメラーゼI抗原反応性B細胞を中心とした細胞間相互作用を解析することで、自己反応性B細胞の機能を明らかにすることを目的とする。従来法では患者から得られた少数の自己反応性B細胞を検討することはできない。このため、本研究ではマイクロチップ上に作成されたマイクロ空間を用い、トポイソメラーゼI抗原反応性B細胞と血管内皮細胞、線維芽細胞、T細胞をはじめとする免疫細胞の互いに及ぼす影響を検討し、自己反応性B細胞の機能解析を実現することを目的とする。今年度の進捗を以下に記載した。 1) SSc患者末梢血からの細胞分離とマイクロ空間を用いたB細胞機能解析:令和元年度に引き続き、令和2年度も、抗トポイソメラーゼI抗体陽性のSSc患者から、通常の診療で得られた採血検体を用い、血球分離剤によりリンパ球を分離し、抗CD20抗体によるB細胞の分離を行った。そして、蛍光標識されたトポイソメラーゼI抗原タンパク質に結合するB細胞をセルソーターで抽出することによりトポイソメラーゼI反応性B細胞を得た。このようにして得られた B細胞は、マイクロチップに形成された直径100 μmの流路で血管内皮細胞と共培養され、血管内皮細胞との細胞間相互作用を検討中である。 2) SScモデルマウス解析:トポイソメラーゼI抗原を野生型マウスに1週間おきに計4回、皮下投与し、SScモデルマウスを作成した。このモデルマウスにおいて、皮膚と肺の線維化が生じていることを病理組織学的に確認した。このマウスから得た脾臓B細胞を用いて、ヒトSSc患者の場合と同様に、マイクロチップを用いたB細胞の機能解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ヒトSSc患者およびSScモデルマウスから得たB細胞が、培養液中に放出する微量のサイトカインを、マイクロ空間に展開したマイクロ反応場を用いて、サイトカイン捕捉抗体結合ビーズを導入して解析する予定である。この測定に用いる検出器は、高感度な熱レンズ顕微鏡検出系を使用しているため、従来の測定手法よりも100-1000倍の感度で解析が可能である。さらにトポイソメラーゼI反応性B細胞が産生する抗トポイソメラーゼI抗体や、その他の自己抗体の血管内皮細胞に対する結合能に関してもマイクロチップ上で細胞ELISAを行うことで検討する予定である。B細胞のみならず、血管内皮細胞から産生されるサイトカインを解析することで、自己抗体が血管内皮細胞に及ぼす影響を検討する。加えて、トポイソメラーゼI抗原誘導SScモデルマウスを用いた検討では、トポイソメラーゼIに対する自己反応性B細胞が産生される。このB細胞を野生型マウスへ養子移入することにより、皮膚や肺における線維化を誘導するかを検討し、自己反応性B細胞の病原性について検討を行う。ヒトの場合と同様に、トポイソメラーゼI反応性B細胞から産生されるサイトカインや自己抗体の産生能に関する解析も行う予定である。 これらの研究は、現在までに技術的な困難さから解析が不可能であった自己反応性B細胞と、T細胞をはじめとする他の細胞との細胞間相互作用を検討することにつながる。自己反応性B細胞のサイトカイン産生能に関しては、特殊なトランスジェニックマウスを用いた検討があるのみで、ヒトに関しては全くなされておらず、これまでに報告のない新規性の高い結果を得られることが期待される。本研究の成果は他の自己免疫疾患に関しても応用されることが想像され、自己免疫疾患全般に対する病態解明と新規治療法の開発に寄与すると考えられる。
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