研究課題
プロスタグランシジン(PG)を代表とする脂質メディエーターは、生体恒常性維持、炎症・免疫病態制御など生体に重要な役割を果たす生理活性脂質であり、その制御薬は様々な疾患治療へ臨床応用されている。代表的な慢性炎症性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎においても、脂質メディエーターの病態形成への関与が示唆されてきたがその詳細なメカニズムは不明な点が多い。本研究では、脂質メディエーターの中でもPGに着目し、そのアトピー病態への関与・制御機構について、動物モデルを用いて解明することを目的とした。まず、ハプテン反復塗布によるアトピー性皮膚炎モデルをもちいて、PG合成阻害剤であるインドメタシンの効果を検証した。その結果、インドメタシン投与群では皮膚の浮腫などの臨床所見、組織学的な炎症細胞浸潤・皮膚肥厚の程度、type2サイトカイン産生量ともいずれも有意に増悪・増強された。また、血中のIgE量についても、インドメタシン投与群で有意に増強していた。すなわち、内在性に産生されるPGは、アトピー性皮膚炎の炎症局所において、炎症抑制性に作用している可能性が示唆された。炎症部位では種々のPGが産生増強していたが、特にPGE2の増強が強く認められた。インドメタシン投与群では、type2サイトカインのうち、もっとも上流に位置するIL-33, TSLPの産生増強が認められたため、PGE2がそれらのサイトカイン産生制御を行なっている可能性が示唆された。さらにPGE2の作用する受容体を培養表皮角化細胞を用いて検討したところ、EP2受容体を介し、細胞表面上のPAR-2受容体の内在化を誘導し、TSLPの産生制御を行っていることが明らかとなった。以上より、PGE2はEP2を介しアトピー性皮膚炎の内在性抑制因子として機能していると考えられた。
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J Allergy Clin Immunol
巻: 148 ページ: 563-573
10.1016/j.jaci.2020.12.654