研究課題/領域番号 |
19K08792
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
大森 深雪 愛媛大学, 医学系研究科, 講師 (30462667)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / 皮膚 / エピゲノム / 代謝リモデリング |
研究実績の概要 |
表皮構造は、増殖能を持つ最深層のケラチノサイトが分化しながら表層へ向かって移動し、バリアを形成することにより維持されている。バリア形成にはケラチノサイトが適切に増殖・分化して抗菌因子や保湿因子を放出することが必要であるが、一般に細胞の増殖・分化には代謝やエピゲノム変化が伴う。加えて表皮は、外来異物や物理的・化学的侵襲に晒される度に一過性の炎症状態となるため、秩序立っておこる代謝やエピゲノム状態がしばしば撹乱される環境にある。この撹乱が持続あるいは頻発すると、恒常性が乱された細胞が慢性的に存在する状態となる。本研究では、「恒常性の乱れの慢性化は細胞の疲弊や老化をもたらす」という仮説を立てて、エピゲノム調節因子の役割に着目した研究を行っている。 本研究では、タモキシフェンに応答して表皮特異的にエピゲノム調節因子を欠損するマウスを、ヒストンH3K27脱メチル化関連因子およびヒストンH3K4メチル化関連因子について作製した。タモキシフェンには細胞毒性があることから、基礎実験で投与条件の最適化を行った。 次に、恒常性の慢性的な乱れを模すアレルギー性皮膚炎モデルを用いて、局所の表皮でエピゲノム調節因子の発現を確認した。その結果、特定のヒストンH3K4メチル化関連因子の表皮における発現が炎症の強さと逆相関していることを見出した。 また、表皮特異的にヒストンH3K4メチル化関連因子をノックダウンしたマウスの皮膚で慢性的炎症状態を誘導し、組織学的検索を行うと、ヒストンH3K4メチル化関連因子の発現の有無により表皮の厚さと細胞形態に差異を認めた。さらに表皮の遺伝子発現を解析すると、表皮ケラチノサイトの増殖・分化マーカーの発現にも差異を認めた。以上の結果を基に、現在は、慢性炎症を惹起した表皮において、細胞形態や分化・増殖マーカーの発現・分布が継時的にどのように変化するのかを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に検討した条件でタモキシフェン塗布したマウスを中長期的に観察してみると、タモキシフェン塗布した皮膚の周辺に強い掻痒感が惹起されることを発見した。タモキシフェン塗布マウスの約半数では実験の開始時点で掻爬による傷が生じてしまうことから、塗布条件の変更が必要と判断した。そこで、遺伝子のノックダウン効率の維持・一過性の腫脹軽減・掻痒感軽減という観点からタモキシフェン濃度を下げることが可能かについて再検討した。その結果、検討項目を満たす条件を定めることができた。 以上の基礎実験と並行して、申請当初から予定していたアレルギー性皮膚炎モデルにおいて、表皮におけるエピゲノム調節因子の発現を測定した。その結果、特定のヒストンH3K4メチル化関連因子の表皮における発現が病態の重症度と逆相関することを見出した。この因子の発現は、アレルギー性皮膚炎でおこる表皮性状の変化で何らかの役割を担うことが予想されたが、先行研究がなく、他分野の先行研究を参照すると本研究で着眼に値するものと考えられた。よって、新規性・独自性・仮説の検証における妥当性の観点から、申請当初の予定を変更してヒストンH3K4メチル化関連因子に対象を絞って今後の研究を進めることとした。 タモキシフェン塗布によりヒストンH3K4メチル化関連因子を表皮特異的にノックダウンしたマウスで、アレルギー性皮膚炎および光老化実験モデルを用いて、「恒常性の乱れが慢性化した状態」つまり慢性炎症を惹起した。皮膚は高次構造をとることから、定量的PCR法および組織学的手法により、増殖・分化マーカーの発現と分布を解析した。その結果、増殖・分化マーカーの発現は炎症を惹起してからの時間により変化し、着目する因子の発現の有無により異なっていた。ただし、用いた実験条件では細胞老化マーカーの発現は確認できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに検討したアレルギー性皮膚炎モデルおよび光老化モデルの実験条件では、「恒常性の乱れが慢性化した状態」は解析できるが「細胞が不可逆的に疲弊・老化した状態」を解析することは難しいことが判明した。また、「恒常性が撹乱されたごく初期の状態」を解析するには、現在までに検討した実験系では表皮の変化が緩やかであるため、増殖や分化がより激しく惹起される実験系を選択する必要があると考えている。申請当初は、同一の実験系の異なるタイムポイントで先述の3つのフェーズの解析を行う予定であったが、今後は、解析目的に即した実験系を適宜選択し、研究を円滑に進める方針である。最終年度は、増殖・分化・細胞老化に関する解析をフェーズごとに切り分けて行い、それぞれの結果を総括することにより、慢性炎症に伴う細胞老化における代謝とエピゲノム変化の連関を考察する予定である。
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