研究課題/領域番号 |
19K08801
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大内 健嗣 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (30528419)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 3次元組織構造体 / オルガノイド / ケラチノサイト |
研究実績の概要 |
野生型マウスの耳介より採取した皮膚を使用した。皮膚はディスパーゼを使用し、真皮から表皮を剥離し、トリプシンを用いて表皮細胞を分離した。この細胞をマトリジェル内に包埋し、成長因子存在下で培養したところ、7日目には嚢腫構造を呈する3次元組織構造体を形成した。培養した皮膚オルガノイドの経時的な成長をIncuCyteS3 Live-Cell Analysis Systemを用いて記録した。このシステムは、培養期間を通して安定した環境下で細胞にストレスを与えることなく、自動的かつ連続的に画像を収集することを可能にする。この観察から、トリプシンを用いて表皮細胞を分離した後、複数個のケラチノサイトの集塊からオルガノイドが発育し、成熟したオルガノイドが形成されることが判明した。 つぎに皮膚オルガノイドの形態学的な解析を試みた。電子顕微鏡による観察で、皮膚オルガノイドにケラチンフィラメント、デスモゾームを確認した。また、基底層側のヘミデスモゾーム、正常皮膚には観察されるメラノサイトおよびランゲルハンス細胞は確認されなかった。皮膚オルガノイドにおける角化細胞の分化を確認するために、基底層特異的(ケラチン5/14)、有棘層特異的(インボルクリン)および顆粒層特異的(ロリクリン)マーカーを、免疫組織染色によって確認した。また、デスモグレイン1/3(デスモゾーム構成タンパク)、ZO-1およびClaudin-1(タイトジャンクション構成タンパク)染色で細胞間接着分子の発現を確認した。この細胞間接着分子の解析により、基底層側が外側、角化層が内側を向き、内腔に角化物が充満する嚢腫構造を呈し、正常皮膚を模倣した分化を示す皮膚オルガノイドの構造が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
皮膚オルガノイドの機能的解析を試みた。具体的には皮膚オルガノイドの上皮の透過性を評価した。具体的にはSulfo-NHS-LC-biotinを培養液に加えて、ビオチン標識されたタンパク質を蛍光標識されたストレプトアビジンで可視化した。Sulfo-NHS-LC-biotinはタンパク質をビオチン化する試薬であるが、水溶性であるため、細胞膜を通過できず、かつ分子量が556.59とタイトジャンクションバリアを通過できない大きさをもつ。すなわち細胞膜表面のタンパク質をビオチン化しつつ細胞間隙を拡散していく。予想では、オルガノイドは外側にはタイトジャンクションを有さないため、表皮細胞間は外側から内腔側のタイトジャンクションまでビオチン化されるはずであったが、表皮細胞間のビオチン化は確認されなかった。表皮細胞間がビオチン化されるには培養時間が短い可能性があり、現在、実験系の最適化を試みている。もし、免疫染色での評価が難しい場合は硝酸ランタンを用いて、電子顕微鏡ベースで皮膚オルガノイドの上皮の透過性を評価することを検討している(Kubo et. al. JEM 2009)。 オルガノイドの特徴は自己複製と分化細胞の産生を行いながら長期培養が可能である点である。予備実験で作成したマウス皮膚オルガノイドを継代培養したところ、約3回の継代(約1ヶ月)にて発育が停止することが確認された。基本的な培養条件に加えて、上皮幹細胞のニッチ因子であるWNT、TGF-β、BMP、p38MAPKシグナルの促進および阻害条件を検討し、長期培養に最適な条件を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
組織の立体構造を再現するオルガノイドは移植のリソースとして利用できる可能性を秘めている。実際に炎症性腸疾患モデルマウスにおいて、自家腸上皮オルガノイドの内視鏡的トヨは粘膜治癒を加速する(Yui et al. Nat Med 2012)。皮膚オルガノイドが皮膚創傷治癒に貢献しうるか、マウス創傷治癒モデルを用いて検討する。すなわち、野生型マウスの背部皮膚に4ミリ生検パンチを用いて、二箇所潰瘍を作成し、片側に同種EGFPマウスから作成したオルガノイドを接種し、コントロール側と潰瘍の改善率を比較する。上皮化後に、潰瘍部を生検し、皮膚オルガノイドが上皮に生着しているかを観察する。また舌オルガノイドは、マウス舌の筋層内に移植可能であり、移植後、レシピエントの舌内で分裂、成熟する(Hisha et al. Sci Rep 2013)。in vitroで培養された皮膚オルガノイドがin vivoの真皮へ移植可能であれば、真皮の間葉系細胞との相互作用から毛包へ分化することも期待される。 一方で克服すべき課題は、皮膚オルガノイドの長期培養を可能にすることである。約3回の継代(約1ヶ月)にて発育が停止することが確認されたが、生体外で遺伝子改変による疾患モデルへの応用や薬剤スクリーニングを行うには、腸管由来のオルガノイドのように無限に継代培養が可能であることが重要である。現在、長期培養に最適な条件を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)使用予定であった抗体などは、過去に購入した抗体を使用することで賄うことができた。また購入予定であったRecombinant Human R-Spondin 1やマトリゲル 基底膜マトリックスは在庫不足であったため、翌年度に購入することになった。全体的に効率よく物品調達を行うことができたため未使用金が発生した。
(使用計画)長期培養条件を探索するため、培養液に添加する上皮幹細胞のニッチ因子;WNT、TGF-β、BMP、p38MAPKシグナルの促進ならびに阻害因子を購入する予定である。
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