最終年度で克服すべき課題は、皮膚オルガノイドの長期培養を可能にすることであった。約3回の継代にて発育が停止することが確認されたが、生体外で遺伝子改変による疾患モデルへの応用や薬剤スクリーニングを行うには、腸管由来のオルガノイドのように無限に継代培養が可能であることが重要である。基本的な培養条件に添加しているY27632を除くと、皮膚オルガノイドは形成されないことから、Rho-associated kinase(ROCK)の過剰な活性化がオルガノイドの継代培養を阻害していることが予想された。継代ごとにROCK活性が上昇するか否か、初代培養と継代培養ごとにROCK活性アッセイを用いて評価したが、ROCKの活性化は確認されなかった。またROCKの下流にあるミオシン軽鎖のリン酸化レベルも確認したが、初代培養と継代培養間で差異は認められなかった。Y27632のオフターゲットとしてAkt伝達経路が知られている。PI3K-AKT 伝達経路は上皮細胞の生存と増殖、タンパク合成、グルコース代謝に重要な役割を果たす事が知られている。活性化Aktは、アポトーシス促進因子のBADの不活化、グリコーゲンや脂肪酸合成を促進するGSK3βの活性化、蛋白質合成促進に関係するmTORの活性化などに働き、また細胞周期促進への関与や、細胞が生存・成長しやすい環境に整える。初代培養と継代培養を比較したRNA-seq解析から継代培養細胞においてmTORシグナル伝達経路が抑制されていることが示唆された。そこで、Aktシグナル伝達経路に注目したところ、発育が停止する継代培養群でAktのリン酸化レベルが減少していた。以上から継代培養を経るとAkt活性が減少することで、mTOR経路の抑制から細胞増殖が抑制されることが示唆された。現在、Aktを活性化する小分子SC79が皮膚オルガノイドの長期培養に寄与するかを検証中である。
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