研究課題
全身性強皮症 (SSc) は、自己免疫ならびに結合組織の疾患であり、免疫異常、線維化ならびに血管障害との関連することは分かっているが、その病態は十分に解明されていない。研究代表者らはSSc の強いリスク (odds ratio = 9.4)を伴う感受性変異をretinoid X receptor beta (RXRB)遺伝子上に特定した。この遺伝子産物はレチノイン酸を介した抗線維化活性を有していることから、SSc の発症機序への機能的な関与が強く示唆される。そこで、遺伝的なリスク変異に基づいたこれまでにない新たなアプローチにより、SSc のさらなる病態理解を進めることが本研究の目的である。そこで本年度は以下の実験を実施し、成果を得た。(1)このリスク変異を有する個体PBMCからRNAを抽出、RXRBを発現ベクターへクローニングし、3個体のヒト皮膚由来の初代培養繊維芽細胞へトランスフェクション、さらにRNA抽出した。最終的にこのRNAを用いて線維化に関与する代表的な遺伝子を対象に定量的PCRを行った。その結果、リスク変異がCOL1A1ならびにPPARGの発現量を上昇させることが明らかとなった。(2)安定した実験系を確立するために、不死化されたヒト繊維芽細胞をCRISPR/Cas9システムによりゲノム編集し、原因変異を導入する実験を開始した。これに先立ちまず、内在性のRXRBをノックアウトした細胞を作製することに成功した。そこでこの細胞の遺伝子発現を調査したところ、CCL2ならびにMMP1で発現量が上昇していることが明らかとなった。(3)原因変異を有する強皮症患者由来繊維芽細胞のRNAシークエンシングによる網羅的発現解析に向け、変異を有する患者細胞3個体と変異がない患者細胞3個体の細胞の分離に成功した。
2: おおむね順調に進展している
培養細胞での実験において、遺伝学的に見出した変異が線維化のマーカーに影響を与えうることを確認することができた。次年度はこの細胞を用いて、実際にレチノイン酸がどのような影響を及ぼすのかを追求できることとなった。患者試料の調整には少々時間がかかり、網羅的発現解析が次年度に繰り越されたが、早急に次のステップに進む予定である。
原因変異導入不死化繊維芽細胞の構築を精力的に行う予定である。この細胞を元に種々の薬剤試験が可能となり、飛躍的な展開が見込めるものと期待している。
高額なRNAシークエンシングが次年度に行われることになったため、差額が発生した。この実験に向けた試料の調整は完了しているので、次年度にこの差額分をこの実験の費用にあてる予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
EBioMedicine
巻: 57 ページ: 102810
10.1016/j.ebiom.2020.102810.
Pharmacogenomics J .
巻: 21 ページ: 94-101
10.1038/s41397-020-00187-4.