研究課題/領域番号 |
19K08803
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中沢 寛光 関西学院大学, 理工学部, 教育技術主事 (70411775)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 皮膚角層 / 細胞間脂質 / 経皮吸収 / 放射光 / X線回析 / 電子線回析 |
研究実績の概要 |
我々の人体は皮膚で覆われ、そこで皮膚は水を主成分とする生体を乾燥した外部環境から保護し、生体の恒常性を維持し続けている。この機能を皮膚バリア機能と呼ぶが、このバリア機能の発現には、皮膚の最表層に位置する厚さわずか10数マイクロメートル程度の角層が重要な役割をになっている。角層はケラチン繊維を主成分とする“角質細胞”と、その周りを取り囲むように存在する“細胞間脂質”の領域から構成される。近年の放射光X線や電子線による回折実験により、それらが高秩序化され3次元構造を形成することで、また適切な水分を構造内に含むことで、この高いバリア特性が発揮されていると考えられている。 よって、未だ未解明な部分が多いバリア機能の作用機序を明らかにする為には、角層の構造を詳細に解析する必要がある。また経皮吸収性の医薬品や化粧品を開発する際には、角層と種々の物質との相互作用、とりわけ生体の基本物質である水との相互作用を詳細に解析することが重要となる。本研究では、SPring-8やKEK-PFなどの高輝度なX線源を用いることで、角層と水をはじめとする種々の物質との相互作用を詳細に解析し、バリア作用機序や経皮浸透メカニズムを明らかにすることを目指す。今年度については、独自に開発した試料保持装置(特許番号:5904835号)を用いて様々な方法で角層に水を付与し、その際に生じる角層の構造変化や物質の浸透性変化の様子を詳細に解析した。その結果、加湿する水の存在様態が水分子の角層内浸透性やその保持状態に影響することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度末より、世界的なコロナウイルス蔓延により研究活動が大幅に制限され、大型放射光施設が閉鎖されるなど、研究の遂行に重大な障害が生じたが、その中でも少ない実験機会を有効に活用することができた。その結果、存在状態が異なる水分子の角層内挙動の違いを明らかにすることに成功し、コロイド及び界面科学部会などの関係学会でこれら成果を広く情報発信することができた。また、化粧製剤の皮膚表面あるいは表面内部における構造変化を解析する手法を新たに開発し、これら研究についてもおおむね順調に推移していると判断している。次年度も関連施設閉鎖や出張制限等により、ある程度研究活動が制限されることが予測されるが、本年度取得した知見の下に、角層と水の相互作用を詳細に解析した後、電場などの外部刺激が 経皮浸透性に与える影響解析などに発展させていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度については、水と角層構造の相互作用研究についてさらに同種の実験をすすめ、統計学的に構造変化の傾向を評価する予定である。また角層と類似の構造を有する毛髪でも同様の実験を展開し、水の存在状態が毛髪キューティクルやインターメディエイトフィラメントなどの構造に与える影響の違いを評価する。また昨年度開発した、皮膚表層と皮膚内部の構造を分離して解析する手法の完成度を高める実験を実施し、当手法を確立した後、特許の申請などを行う予定である。水と角層構造の相互作用が明らかになった後、あらかじめ様々な手法で水和した角層に経皮吸収性の物質を塗布し、さらに電場による刺激を与え、角層の構造の時間変化の様子を調べることで、溶液の浸透性を評価する実験などそ実施していく予定である。昨年は中止されることが多かった国際学会等であるが、徐々にオンライン開催されるようになってきており、それらを利用して、上記研究成果を広く世界に発信していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度については、コロナ禍による出張の自粛や放射光施設の停止により、想定していた研究活動が制限されたため、予定していた研究費に少しだけ未使用分が生じた。また同種の研究を他研究費で遂行していたので、他研究費で購入した備品などを供用することができ、そのことも未使用額が発生する一因となった。次年度以降は、実験も徐々に再開され、データ解析の必要性も生じてくると思われる。当研究費についてはデータ解析のための人件費、データ公開のための論文作成費などに有効的に活用する予定である。また事態が収束し、研究活動が完全に再開できれば、放射光実験のための実験器具の購入やその出張旅費、国際学会の参加費などに使用する予定である。
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