研究課題/領域番号 |
19K08803
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中沢 寛光 関西学院大学, 理学部, 教育技術主事 (70411775)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 経皮吸収 / 皮膚角層 / X線散乱 / 化粧品 / 医薬品 / 細胞間脂質 |
研究実績の概要 |
本研究では、SPring-8(BL03XU、BL40B2)やKEK-PF(BL6A)の高輝度放射光を用いることにより、ヒト皮膚角層の微細な構造変化を感度良く捉えることで、塗り薬などの物質の経皮吸収性の評価や作用メカニズムの解析研究を展開している。これまでの研究成果により、物質の種類や外部環境などを変化させると、皮膚内浸透性物質塗布後の角層の構造変化の時間特性が変わり、物質の経皮吸収性が変化することが明らかとなっている。これらの知見を利用し、今年度は、化粧品や生活用品、美容機器開発関連企業の研究者の方々と共同で、①皮膚角層上に塗布した化粧品の角層上での構造変化過程及び角層内浸透挙動の解析、②医薬品や化粧品原料に多く使用されるエステル油剤の角層内浸透挙動の解析、③角層に与える水のクラスターサイズが角層の構造や物質の浸透挙動に与える影響の解析の3つの研究を柱とし、同種の研究を広く展開することができた。またそれらの成果を多くの学会で情報発信した。具体的には、関係先企業等の研究者と共同で、CONFERENCE OF THE EUROPEAN COLLOID & INTERFACE SOCIETY(ECIS)、日本化粧品技術者会(SCCJ)、技術教育出版セミナー、皮膚科学会、油化学会(若手研究者奨励賞受賞)などで発表した。SCCJでは最優秀発表賞を、また油化学会では若手研究者奨励賞を受賞した。また、科学雑誌、Biochimica et Biophysica Actaにも本研究に関連する成果の論文を投稿し、最近アクセプトされた。この論文についてはまだ出版号などの詳細情報は得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き、コロナ禍における実験的制約が大きかったものの、大型放射光施設での実験機会を極力確保し、それなりの実験データを取得することができた。その結果、クラスターサイズが異なる水分子の角層内への浸透挙動や角層内での存在状態の違いを検証する補足データを取得することができた。またエステル油剤の種類による角層内浸透挙動の微妙な差異を捉えることにも成功し、新しい角層内の物質の浸透挙動の定量化解析実験手法を確立した。化粧品を用いた実験では、角層表面に蓄積した化粧品の構造形成過程や、また角層表層に化粧品が浸透している様子も捉えることができ、新たな化粧品の使用用途や価値の創製に貢献することができた。またこれらの成果を関連学会等で広く情報発信することができ、多くの有益な議論を展開することもできた。次年度についてもある程度は行動制限を受けることが予測されるが、海外への移動制限もある程度緩和されてきたこともあり、これまで参加できなかった国際学会などでも積極的に発表していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度についても、5.に記述した、①、②、③の追加実験や再現性の確認実験を継続する予定である。特に水と角層構造の相互作用に着目した同種の実験をすすめ、統計学的に構造変化の傾向を評価する予定である。またヒト角層とその構造特性が類似するヒト毛髪でも同種の実験を実施し、水の存在状態(クラスターサイズなど)が毛髪キューティクルやインターメディエイトフィラメントなどの構造に与える影響の違いを評価していく予定である。今年度は、これらの研究を優先したため、X線マイクロビームを用いた角層内の微細領域の構造解析実験に遅れが生じた。次年度は、皮膚表層と皮膚内部の構造を分離して解析する手法の完成度を高める実験を実施し、当手法を確立した後、特許の申請などを検討していきたい。また、角層の構造や物質の浸透特性に対するこれら水の作用が明確化された後、さらに電場や超音波などの外部刺激がこれら物質の浸透特性に与える影響を詳細に解析していく予定である。今年度はほぼオンライン開催であった学会も、次年度は徐々に現地開催も再開されると予測される。これらの機会を積極的に利用し、関係研究者らと有益な情報交換も行っていきたい。研究成果を広く世界に発信していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度についても、コロナ禍による出張の自粛等により、当初想定していた研究活動がある程度制限され、また同種の研究に関し、多くの企業と共同研究を展開したので、それらの企業の共同研究費から研究費を執行することができたこともあって、予定していた研究費に少しだけ未使用分が生じた。次年度は、これまで参加できなかった学会や研究会等も徐々に再開されると予測され、その旅費にこれらの費用を活用したい。さらに、追加で取得する実験データの解析のための人件費やデータ公開のための論文作成費などにも有効的に活用する予定である。また再現性の確認や応用研究などの引き続き実施する実験においても、様々な消耗品が必要となるのでそれらの購入にも活用したい。
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