研究課題
形質細胞の難治性悪性腫瘍である多発性骨髄腫においては、その発症と進展にヒストンメチル化異常が関与し、ヒストン脱メチル化酵素UTXの不活性型変異が報告されている。成熟B細胞のみでUtxが欠損し、かつ活性型Braf-V600E変異が生じるコンパウンドマウスを作製したところ、一定数のマウスが多発性骨髄腫を発症した。本研究においては、この骨髄腫モデルマウスを用いて、UTXの多発性骨髄腫の発症に関わるエピジェネティック異常の治療標的遺伝子を探索し、それを制御するための新規治療方法を統合的に確立することを目的として研究を行っている。当該年度においては、骨髄腫マウスの腫瘍形質細胞の網羅的遺伝子解析を行い、骨髄腫の進展に関わる標的遺伝子候補を同定し、その発症機序の一部を理解することが出来た。また腫瘍細胞をin vitroで培養し、EZH2/EZH1阻害剤単剤やプロテアソーム阻害剤との併用療法の効果やBraf阻害剤の治療効果を明らかにした。さらに我々は、Akt阻害剤によってEZH2発現が低下し、EZH2/EZH1共阻害剤とAkt阻害剤が相乗的に抗骨髄腫効果を示すことを明らかにし、その分子学的機序を解明した(Rizk M, et at. Cancer Sci. 2019)。また新たなエピジェネティック治療標的の候補であるPRC1の構成成分BMI1を減少させる新規化合物PTC596がin vitroとin vivoで抗骨髄腫効果を示すことを明らかにした。一方でPTC596は骨髄腫細胞において、直接的にはtubulin阻害作用を持つことも判明した。更にPTC596とプロテアソーム阻害剤との併用療法が相加相乗効果を示すことを見出し、その機序解明が進行している。
2: おおむね順調に進展している
骨髄腫マウス由来の腫瘍細胞を用いたエピジェネティック解析や、in vitroでの薬剤治療効果の解析は順調に進展し、EZH2/EZH1阻害剤単剤やプロテアソーム阻害剤との併用療法がエピジェネティック治療の候補として期待される。またBMI1を減少させるPTC596単剤あるいはプロテアソーム阻害剤との併用療法の抗腫瘍効果も明らかとなり、有望な治療候補の一つとなっている。以上より研究はおおむね順調に進展していると考えている。
骨髄腫モデルマウスにおける腫瘍発症機序を更に詳細に明らかにしていきたい。また、骨髄腫マウスのin vivoでの治療モデル確立を引き続き目指し、エピゲノム異常によって発症する骨髄腫モデルにおける治療効果の検証を行いたい。また新規薬剤PTC596の作用機序に関して、BMI減少の抗腫瘍効果における関与を明らかにしたい。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
Cancer Science
巻: 110(12) ページ: 3695, 3707
10.1111/cas.14207.