研究課題
慢性骨髄性白血病(CML)に対するチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に関連した心血管イベント発症の原因として動脈硬化との関係性を推察した。そこで動脈硬化モデルマウスにTKIα、TKIβ、TKIγ、TKIδ、TKIεを投薬した。これらは本邦でCMLに対して承認されているイマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ポナチニブのいずれかである。しかしながら、上記の対応については現在研究途中で公表できない。これらを長期間投薬したのち、動脈硬化病変を組織学的に評価した。しかしながら、本実験ではコントロール群と比較し、特に動脈硬化病変の増悪はみられなかった。一方、TKIαではコントロール群やその他のTKI群と比較して、動脈硬化の抑制が認められた。次に心血管イベント発症の原因として血管内皮障害との関連を推察した。そこで動脈硬化モデルマウスに各TKIを投薬し、大動脈から血管内皮細胞を単離しtotal RNAの抽出を試みた。抽出したtotal RNAに対して次世代シーケンサーを使ったRNAシーケンスを行うことで、網羅的に動脈硬化に関わりうる分子の同定ができると考えた。またマウスの大動脈から血管内皮細胞を単離する方法として、Milteniyi Biotec社のMACS®テクノロジーを用いてCD31マイクロビーズにてpositive selectionを行うこととした。そこで各TKIを投薬したマウスから速やかに大動脈を単離し、さまざまな方法を用いて大動脈のホモジナイズを試みたが実験手技に難渋した。また大動脈自体から得られる細胞数が極めて少なく、マウスの数を増やすなど工夫をしたが、十分量の検体を得られなかった。
2: おおむね順調に進展している
CMLに対するTKIと動脈硬化の関連を追及するうえで、TKIαによる動脈硬化抑制作用は非常に興味深い現象と考えられた。血管内皮細胞からのアプローチは困難であったため、マクロファージとTKIの関係について実験を進めていくこととした。まず各TKIを投薬された動脈硬化モデルマウスの血中コレステロール値を調べた。その結果、動脈硬化が抑制されているにも関わらず、TKIαでは総コレステロール値、LDLコレステロール値ともに上昇がみられた。その他のTKIではコントロール群と比較して特に大きな変化はみられなかった。昨今コレステロールの中でも小型LDLが動脈硬化に最も関連すると報告されている。そこでTKIαによるコレステロール分画異常を予想し、ゲルろ過HPLC法によるコレステロールの分画の確認をした。しかしながら、小型LDLもコントロール群と比較して十分量確認され、コレステロールの分画異常が原因とは考えにくかった。次にマクロファージによる酸化LDLコレステロールの取り込み障害を考え、骨髄由来マクロファージへの蛍光標識された酸化LDLの取り込みを確認した。その結果、コントロール群と比較してTKIα群ではマイクロプレートリーダーによる蛍光強度の定量で、有意に取り込みの低下が認められた。
今後は各TKI暴露時におけるマクロファージの酸化LDLの経時的な取り込みを評価するため、ライブセルイメージング顕微鏡を用いてマクロファージの観察を行う。また詳細なメカニズム解析のため、各TKIの暴露を受けた細胞およびマウスからtotal RNAを抽出しRNAシーケンスを予定している。網羅的な遺伝子発現比較の解析を行ったのち、機能解析やパスウェイ解析も行い原因の同定を行っていく。原因遺伝子が推察された段階で定量PCRによる確認作業を行う。
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International Journal of Hematology
巻: Epub ahead of print ページ: -
10.1007/s12185-020-02878-x.
巻: 109(4) ページ: 426-439
10.1007/s12185-019-02613-1.