研究課題/領域番号 |
19K08810
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 裕一 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (80721092)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 急性骨髄性白血病 / セリンプロテーアーゼ |
研究実績の概要 |
急性骨髄性白血病(AML)細胞株、患者検体を用いてAML細胞における正常もしくは異常X遺伝子転写産物の発現量、発現比率、病型、染色体・遺伝子異常との関係について解析を行った。細胞株、患者細胞いずれにおいても染色体異常t(8;21)、inv(16)を有するCBF-AMLにおいて野生型X遺伝子ならびに異常X転写産物の高発現が認められた。一方でCBF-AML以外のAMLでも高発現が認められる病型も存在した。 次いで、X遺伝子、同異常転写産物の発現、欠失が正常造血もしくは白血病細胞へもたらす影響およびそれに関わるメカニズムの検討を行った。種々のAML細胞株に対して遺伝子Xに対するshRNAを導入し、細胞生存に与える影響について検討したところ、X分子の発現が認められた細胞株ではshRNA導入により生細胞の減少が認められた。CBF-AML細胞株、Kasumi-1での検討ではshRNA導入細胞では細胞増殖シグナルへの影響は認めず、細胞周期のG1停止、Annexin-V陽性細胞の増加が認められた。 白血病融合遺伝子MLL-AF9をマウス造血細胞に遺伝子導入行い作成したマウス白血病細胞に、遺伝子Xに対するshRNAを導入した検討では、shRNA導入細胞ではコントロール群と比べ有意な生細胞の減少が認められた。また、白血病発症・進展にX分子の与える影響を検証する目的で、マウス造血細胞にMLL-AF9と野生型Xもしくは異常Xを共発現させた後にマウスに移植を行い観察を行った。野生型X導入白血病細胞を移植したマウスに比べて、異常X発現細胞を移植したマウスでは生存が短い傾向が認められ、正常Xと異常Xの白血病発症、進展への影響の差異も示唆された。 これらより、AMLの発症・進展におけるX遺伝子、変異Xの重要性、治療標的としての可能性とその有効性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正常および異常遺伝子X転写産物の発現とAML病型、分子異常との関わりについての検討を行い、CBF-AMLにおいて正常X分子ならびに異常X分子が高発現していることを複数の細胞株にみならず、臨床検体においても明らかにした。また、それ以外のAMLにおいても正常X並びに異常Xの発現も認められ、これらAMLにおける発現と病型、分子異常との関わりついての検討、X遺伝子発現に基づくAML層別化が必要であると考える。 また、X遺伝子および同異常転写産物の発現、欠失が正常造血もしくは白血病細胞へもたらす影響について多数の細胞株を用いた検討を行い、X遺伝子高発現細胞では同遺伝子の発現が細胞の生存に重要である事を明らかにした。また、マウス白血病モデルを用いた実験においても、同様にX遺伝子発現が白血病細胞の維持に有用である事を明らかにした。細胞株を用いた詳細な検証では、同遺伝子欠損白血病細胞では、細胞増殖に関わるシグナル経路への影響は認められず、細胞周期への影響、アポトーシス誘導による機序が考えられた。これらのことから本研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今までの検討により、AMLにおけるセリンプロテアーゼを標的とする治療法の可能性が示唆された。更なる詳細な検証を目的に、既にデータ集積を行った、AML細胞株における遺伝子X欠損の遺伝子発現プロファイルに与える影響について詳細に検討し、同遺伝子が関わる白血病細胞の進展、増殖に関わる分子基盤と、変異Xをはじめとするセリンプロテアーゼ異常がAML細胞に与える影響を明らかにする。 マウス白血病モデルによる継続的な検討と共にヒト白血病患者検体を用いた検討を計画する。ヒト白血病細胞におけるX遺伝子の細胞内シグナル伝達、白血病の分化、増殖に与える影響、治療感受性についてin vitro、in vivoでの解析を行う。in vivoでの解析では白血病細胞に正常あるいは変異型遺伝子X導入、もしくはそれらを欠失させた後に、NOG免疫不全マウスに異種移植を行う。生着後の白血病細胞の分化および発現系変化、細胞形態の変化をフローサイトメトリー、免疫染色も併用して評価し、X遺伝子を通じた白血病進展、もしくは分化に与える影響を検討する。また、白血病細胞の移植後、骨髄での白血病細胞の生着、細胞周期解析、アポトーシス解析を行うとともに、樹立したAML異種移植モデルマウスに対して既存の白血病治療薬、分子標的治療薬を投与し、遺伝子X、変異型遺伝子X発現の治療感受性への影響について検討を行う。同時に、AML細胞における他のセリンプロテアーゼとの関係についても検討を行い、セリンプロテアーゼ阻害と白血病細胞の増殖、分化、シグナル伝達との関係について多方面からの検討も行う。 これら研究より、白血病治療においてセリンプロテアーゼ、変異型遺伝子Xを治療標的とする可能性を検証し化合物スクリーニングに向けた、スクリーニングシステムの確立を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定実験試薬の納入時期により次年度使用額が生じた。予定された実験試薬の購入に使用する計画である。
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