研究課題
第一にKIRアレルの新規タイピング法確立に向けて、1,500検体に及ぶ日本人検体の全ゲノムシークエンス結果を用いてKIRハプロタイプとアレル、コピー数のタイピングを行った。同結果は近く論文化の予定だが、同結果に基づいてKIRアレルタイピングの全自動化ソフトウェア開発を進めた。第二に本邦で造血幹細胞移植を受けた成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia: ATL)の保存検体を用いた臨床研究に関して、本学および造血細胞移植データセンターで倫理承認を得て、実際に検体を受領した。前項のKIRアレルタイピング法が確立され次第、HLAとKIRアレルのタイピングに進み、移植予後と相関するKIRアレルを抽出する予定である。第三にHLAを欠失した慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia: CML)の細胞株(K562)および特定のHLAを遺伝子導入した同細胞株を用いて、KIR3DL1アレルの機能解析実験を進めた。同細胞株とヒトリンパ球の共培養系において、フローサイトメトリーでNK細胞活性、すなわちCD107aの脱顆粒やIFN-gammaの産生を検出する実験を行った。その結果、NK細胞のKIR3DL1アレルとK562のHLAアレルの組み合わせでK562に対するNK細胞活性が規定されること、CMLの治療薬であるチロシンキナーゼ阻害剤ダサチニブの効果が同じ組み合わせで規定されること、さらに特定のKIR3DL1アレルの機能的阻害でチロシンキナーゼ阻害剤に対する抵抗性を克服できる可能性を見出した。本結果はCMLに対する新規免疫チェックポイント阻害療法の可能性を拓くもので、近く論文化の予定である。
2: おおむね順調に進展している
KIRアレルのタイピング法確立に向けては自動化ソフトウェアがほぼ完成し、全17遺伝子のタイピングを可能にするプライマーを設計している。ATLのレジストリ保存検体を用いた臨床研究については既に検体を受領しており、2021年度中には解析と報告を完了する予定である。KIRアレルを標的とした機能解析実験は完了し、新規免疫チェックポイント阻害療法の可能性を含めて近日論文化の予定である。
全17個のKIRアレルに関してPCR法のマルチプライマー設計を進め、タイピング法を完成させる。本法により、大量の検体でも安価で迅速、正確なタイピングが可能となる。タイピング法が完成した段階で、本邦のATL保存検体を用いた臨床研究を行い、移植予後と相関するKIRアレルとHLAの組み合わせを抽出する。本結果は移植免疫におけ るKIRアレルの臨床的意義を明らかにするもので、将来的には前向き検証を経て移植医療のガイドライン反映を目指す。一方ではKIRアレルの機能解析結果に基づき、特定のKIRアレルを標的とした新規免疫チェックポイント阻害療法の可能性について検証を進める。
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