研究課題
本年度は、我々が作製したαIIbβ3を恒常的に活性化する細胞内変異αIIb(R995W)ノックイン(KI)マウスに関する検討を中心に行った。KIマウスにおいては血小板産生に関する検討を行った。骨髄および脾臓における巨核球数を組織切片を用いて検討したが、KIマウスにおける巨核球数およびその形態に明らかな異常は認めなかった。また骨髄由来培養巨核球においてploidyを検討した結果、やはりKIマウスにおいて明らかな異常を認めなかった。次にproplatelet形成を胎児肝細胞由来巨核球を用いて検討したところ、KIマウスにおいてproplatelet形成の低下を認めた。以上の結果と、これまでの検討結果からαIIbβ3シグナル異常による骨格系蛋白の異常に由来するproplatelet形成障害が、KIマウスの血小板減少の主因であることが明らかとなった。また、我々はαIIbβ3を認めた特異な後天性血小板無力症(aGT)症例に関する検討を行ってきた。従来のaGTの報告は、αIIbβ3のリガンド結合能を阻害する自己抗体を主因とするものがほとんどであったが、本例に認めた抗αIIbβ3抗体はαIIbβ3の機能を阻害せず、その発現を低下させることにより血小板無力症様の症状を呈することを明らかにした(Akuta K, et al. J Thromb Hameost 2019, 17(1):206-219)。更に、我々は新規のβ3遺伝子異常が血小板減少に関与している可能性を示した。この遺伝子異常は従来のαIIbβ3関連血小板減少症にみられる異常と異なり、αIIbβ3の明らかな活性化を誘導しなかったが、ヘテロ患者においてαIIbβ3発現の低下が認められた。またGPVIの低下も認めたが、遺伝子異常は認められず、新たなメカニズムによる血小板減少症であることが示唆された(芥田ら、第81回日本血液学会学術集会)
2: おおむね順調に進展している
KIマウスを用いた検討はその血小板機能および血小板産生障害に関するメカニズムをほぼ明らかにすることができた。しかしαIIbβ3発現低下メカニズムに関しては十分解明できておらず、今後検討を続ける予定である。インテグリンシグナルに関しては、CalDAG-GEFI欠損とKinlin-3欠損例の血小板を用いた検討によりそれぞれの分子のαIIbβ3活性化に対する役割の違いが明確になりつつある。今後更にその分子メカニズムについて検討を続けることを予定している。ただ、コロナウイルスの関連で動物実験が難しくなっており、今後の研究進行の遅れが危惧される。その場合は細胞培養系を用いた検討を中心に行うことを予定している。
本年度は新たなβ3変異による血小板減少症発症メカニズムに関する検討を中心に研究を行うことを予定している。具体的には、変異αIIbβ3発現細胞や患者末梢血由来巨核球を用いて、αIIbβ3のリガンドであるフィブリノゲンに接着させた場合の形態異常、細胞骨格系に関する検討を加える。更にノックインマウス作成の準備を行うことを予定している。またαIIb(R995W)ノックイン(KI)マウスにおいては、αIIbβ3発現低下のメカニズムについて更に詳細な検討を行うことを予定している。インテグリン活性化機構に関しては、CalDAG-GEFI欠損とKinlin-3欠損のinside-outにおける影響について更なる検討(流動条件下での接着能の違い)などに関する更なる検討を加えることを予定している。Kindlin-3欠損例はCalDAG-GEFI欠損と比べより強い出血傾向が認められるが、 これはKindlin-3がαIIbβ3だけでなく血小板のその他のインテグリンの活性化にも関与していることが関連している可能性が示唆される。この点を中心に検討を進めることを予定している
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